レコチョクが、ChatGPTなど生成AIの積極的な活用を進めている。当面は社内業務に生かすことでノウハウを貯め、2024年春には音楽業界に向けて生成AI導入支援やプロダクト展開を目指す。社員200人の約半数をエンジニアが占め、新しいものを何でも取り入れる社風が強みだ。
同社は現在、生成AIをMBO(目標管理制度)に活用し生産性を上げている。社員にはMBOに記入する前に、MBO対応用の共有プロンプトに沿って生成AIに入力してもらっているという。
レコチョク執行役員で、次世代ビジネス推進部部長も兼任する松嶋陽太さんと、同エンジニアリングマネージャーの横田直也さんへのインタビュー3本目となる今回の記事。まず生成AIが社内業務でどう役立てられたかを聞いた。
――レコチョクは生成AIで社内の業務効率化に取り組んでいます。全社員が使いこなすためには、何が必要だと思いますか。
松嶋: テーマは「AIが働きやすい環境を作ること」だと考えています。例えば業務の中心が人の場合、SaaS(Software as a Service)の画面を開いて業務をしていましたが、AIの場合は画面ではなくデータを見て仕事をします。AIが働きやすい環境は、そういったデータにAIがAPIなどを経由してアクセスすることが重要な鍵となります。
そのための環境作りには、SaaSのAPIを開放することや、AIに権限をどこまで与えるかなど環境を整備する必要があります。そうすることでAIと連携しやすく、すなわちAIに仕事をさせられる環境を作れるようになります。「AIも社員だよね」くらいの感覚で環境を作る必要があるなと思っています。
――現時点では人が操作する前提になっていますから、ここをAI中心で考え直していくわけですね。
松嶋: そうですね。例えば入・退社管理でも、社員が入社したら、人事部が管理しているSaaSに登録して、システム部門が管理しているSssSに登録してと、各部署が連携しながら複数人が運用しています。これがAI中心になれば、ボタンひとつでAIがやってくれるようになります。
これ以外でも、世に出ているシステムやサービスは全て、人間がユーザーインタフェース(UI)として管理画面にアクセスする作りになっていると思うんです。ですがAIはそんなことは関係なくて、APIを通じてそこにデータアクセスできれば、(AIは)働けます。そこが次のステップとして「絶対に来るな」と思っているので、われわれはまずAIが働きやすくするためにAPIをどう開放していくかを模索しています。
――AIがやることで、不正なども未然に防げそうです。
松嶋: 間違いもなくなりますね。
横田: エンジニアレベルで言うと、僕らがプログラミングを書く際には、人が読みやすいコードを書くのがメインになっています。これからは多分、AIが読みやすいコードを書くのが主流になっていくのではとも思っています。書いたコードがAIに理解してもらえないとAIが生成してくれなくなるので、今僕らは「AIも読みやすいコードとは何なのか」を模索しているところです。
――AIに理解しやすいコードは、人が理解しやすいコードとは何が違うのでしょうか?
横田: 例えば、1からプログラミングを書く場合、生成AIが自分の書いていくコードをどんどん覚えていってくれるんですよね。最初のうちはそうでもないのですが、20〜30行書いてくると生成AIがそのコードを理解してくれて、次に書きたいコードをサジェストしてくれるようになるんです。これだけでも1からプログラミングするより便利になっています。
――日本語文字入力でも、次の言葉の予測精度が上がってきていますね。
横田: それに近い感じです。今チャレンジしているのは、ドキュメント(設計書)の自動化ですね。例えばエンジニア同士で会話するために設計書が必要になってくるのですが、その設計書を書くのが一苦労だったりします。それをもうAIのプロンプトで決まったフォーマットを作り、こちらがパラメータを入力するだけで、そのドキュメントが仕上がるようにしていきたいと思っています。
――チームで作業する際の手引き書のようなものだと思います。そういう事務的な作業は必要な一方、分かりやすく成果に直結するものではないため、悩ましい部分もありますね。
松嶋: 実際にドキュメントを書くことを嫌がるエンジニアは少なくありません。「そんなのコード読んでよ」ぐらいの感覚でしかないですからね。もちろん作業を進める上では、そういうわけにはいかないのですが、これをAIにやらせることによって圧倒的に生産性は上がりますね。
――生成AIの作業効率そのものも、数年後は相当変わっていそうな感じですね。
松嶋: そうなると思います。GPT4も1度に読み込める短期記憶の数が32Kトークンだったのが、11月に128Kトークンに上がりました。これがもっと拡大して、例えば50万トークンになったら、一つのシステム全部のソースを生成AIが読み込めるようになります。そして、その中で何か改修したいときに「影響範囲どこ」と聞くと、一発で答えてくれるような時代が間違いなくやってきます。ですから今からAIに触れておくことが重要ですね。
――まさに時代はAIファーストになっていくわけですね。
横田: そうですね。マインドをどんどん変えていかないと、恩恵が受けられないし、取り残されていく。そういう発想にならないと本当にいけないなと、身に染みて感じています。
――生成AIを取り入れようとする企業は少なくないですが、マインドから変えていこうとしている企業は決して多くないと思います。
松嶋: 僕の中では、生成AIを導入している企業の事例の中には、インターネット黎明期だった昔でいうところの「メールを採用しました」くらいの部分的な話もあるように思います。ツールとして捉えるのではなく、企業全体としてAIとどう一緒に仕事をしていくかまで考えていかないと、本当の恩恵は受けられないと思います。
――組織から変えていかないといけないわけですね。生成AI時代の企業組織は、どのように変わっていくと思いますか。
松嶋: レコチョクには今200人ぐらいの社員がいて、その約半数がエンジニアです。現段階では弊社でも、現場レベルまでの全員が「AIでこう変えていくんだ」というマインドになれているわけではありません。ビジネス部門の人も含めて、社員をどうオンボーディング(社員を企業にとって有用な人材に育成する施策やプロセス)させていくかが重要ですね。
夏には(生成AIなどの先端テクノロジーとプロダクト戦略を交差させる専門家)梶谷健人氏をゲストスピーカーとして迎え、全社員を対象に生成AIに関するセミナーを開催しました。基本的な理解や業務効率化のテクニック、将来展望など「AIによってどのような変化があるか」という内容は社内でも大変好評でした。そういったマインドチェンジの取り組みから、実践までを進めている状況ですね。
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