静岡県工区の「大井川の水問題」は3つある。「全量戻し」「工事期間中の山梨県への流出」「水平先進ボーリングの出水」だ。このうち2つめまでは決着しており、残りは「水平先進ボーリングの出水」だけだ。
JR東海と静岡県のボタンの掛け違いは「全量戻し」から始まった。当初、JR東海が静岡県に提出した説明書は、科目ごとに表計算ソフトでつくった細かい文字で技術者向け。かつて私も見たけれど、詳しいとはいえ、利水関係者に理解してもらおうという意図は希薄に見えた。その中で数字を追うと、何もしなければトンネルによって毎秒2トンの水が流出する。ただし、実際にはトンネルは覆工し、遮水処理も行うので、営業運転開始後、何十年かすると地下水は抜けきり、出水そのものが減る。
静岡県にとって大井川の水は敏感な問題だ。後述する田代ダムも含めて、大井川には6カ所もダムがあり、それは洪水を防ぐ目的もあれば、発電などの利水もある。ダムがあって安全になる一方で、渇水期も水を流してくれないという問題があり、下流では水位の低下に悩まされてきた。「大井川の水が減る」ことに対して、人々は敏感だ。そこに毎秒2トンの流出である。
静岡県の懸念に対し、JR東海は「大井川の水量が減った分だけ」トンネルから出た水を戻すと提案した。トンネルから導水路トンネルを分岐させて、人々が水を必要とする下流域に流す仕組みだ。トンネルが原因の流水には、最終的に大井川に流れる水もあれば、山体に残って保水される水もある。トンネルから出た水をすべて大井川に流せば、逆に増水の弊害もある。
それでも静岡県は「大井川の水量が減った分だけ」では季節変動もあって特定できないから、「流水を全量戻すべき」と主張した。この食い違いは17年から18年にかけて続き、ついにJR東海が「大井川の水が増水しても逆に困らないのか」と念を押した上で「全量戻し」に合意する。また、戻す水は山体にあったわけで、調整池をつくり濁りや温度を適応させる。
それでも静岡県側は納得できないとし、国に対処を願い出た。そこで国は有識者会議を設置し、20年4月27日から13回の議論を重ねた。21年12月に「JR東海の考え方、対処によって中流下流域に影響なし」という中間報告を出した。これに対して静岡県が意見をとりまとめ、22年に有権者会議から回答した。
「中間報告」というと結論に至っていないように見えるけれど、行政用語でいう「結果」は「法整備」だから、法整備を伴わない議論としては「中間報告」「中間とりまとめ」は終点である。
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