「リニア中央新幹線」の静岡は、いまどうなっているのか 論点を整理してみた杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/8 ページ)

» 2023年12月15日 09時55分 公開
[杉山淳一ITmedia]

大井川流域の水問題も3つに分かれる

 静岡県工区の「大井川の水問題」は3つある。「全量戻し」「工事期間中の山梨県への流出」「水平先進ボーリングの出水」だ。このうち2つめまでは決着しており、残りは「水平先進ボーリングの出水」だけだ。

  • 全量戻し(決着)

 JR東海と静岡県のボタンの掛け違いは「全量戻し」から始まった。当初、JR東海が静岡県に提出した説明書は、科目ごとに表計算ソフトでつくった細かい文字で技術者向け。かつて私も見たけれど、詳しいとはいえ、利水関係者に理解してもらおうという意図は希薄に見えた。その中で数字を追うと、何もしなければトンネルによって毎秒2トンの水が流出する。ただし、実際にはトンネルは覆工し、遮水処理も行うので、営業運転開始後、何十年かすると地下水は抜けきり、出水そのものが減る。

 静岡県にとって大井川の水は敏感な問題だ。後述する田代ダムも含めて、大井川には6カ所もダムがあり、それは洪水を防ぐ目的もあれば、発電などの利水もある。ダムがあって安全になる一方で、渇水期も水を流してくれないという問題があり、下流では水位の低下に悩まされてきた。「大井川の水が減る」ことに対して、人々は敏感だ。そこに毎秒2トンの流出である。

 静岡県の懸念に対し、JR東海は「大井川の水量が減った分だけ」トンネルから出た水を戻すと提案した。トンネルから導水路トンネルを分岐させて、人々が水を必要とする下流域に流す仕組みだ。トンネルが原因の流水には、最終的に大井川に流れる水もあれば、山体に残って保水される水もある。トンネルから出た水をすべて大井川に流せば、逆に増水の弊害もある。

 それでも静岡県は「大井川の水量が減った分だけ」では季節変動もあって特定できないから、「流水を全量戻すべき」と主張した。この食い違いは17年から18年にかけて続き、ついにJR東海が「大井川の水が増水しても逆に困らないのか」と念を押した上で「全量戻し」に合意する。また、戻す水は山体にあったわけで、調整池をつくり濁りや温度を適応させる。

 それでも静岡県側は納得できないとし、国に対処を願い出た。そこで国は有識者会議を設置し、20年4月27日から13回の議論を重ねた。21年12月に「JR東海の考え方、対処によって中流下流域に影響なし」という中間報告を出した。これに対して静岡県が意見をとりまとめ、22年に有権者会議から回答した。

 「中間報告」というと結論に至っていないように見えるけれど、行政用語でいう「結果」は「法整備」だから、法整備を伴わない議論としては「中間報告」「中間とりまとめ」は終点である。

大井川の水利関係図。トンネルは大井川流域の人々の生活圏からかなり離れた上流にあり、トンネルの水を戻す地点の椹島も上流地域にある。そこが導水路トンネルの終点だ(出典:JR東海、大井川の水を守るために 南アルプストンネルにおける取組み
椹島から導水路トンネルを掘り進み、本坑に接続する。トンネル内に出た水はすべてポンプで汲み上げて導水路トンネルに流す。なお椹島に浄化処理施設を設置し、現行法令よりも厳しい基準を満たした水を大井川に戻す(出典:JR東海、大井川の水を守るために 南アルプストンネルにおける取組み

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