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厚労省が目指す「労基法の改正」は、会社と従業員にどれほどの影響を与えるか何が変わる?(4/4 ページ)

» 2023年12月18日 07時30分 公開
[やつづかえりITmedia]
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会社と従業員にどれほどの影響を与えるか

 このような法改正の方向性は、働く個人と企業にどんな影響を及ぼすだろうか。

 まず、「働く人の健康は企業の責任」という風潮が高まることが考えられる。報告書には「企業に期待すること」として、「企業グループ全体やサプライチェーン全体で働く人の人権尊重や健康確保を測っていく視点」を挙げている。直接雇用する従業員にとどまらず、事業に関わる全ての人たちの人権や健康に配慮しろ、ということだ。

 もちろん、人の健康は仕事だけでなくプライベートの過ごし方や出来事、体質など、さまざまな要因に左右される。そのため企業は、「従業員の健康を悪化させるような働かせ方はしていない」ことを証明できるようにしておこうと考えるだろう。

 それには労働時間管理や面談などをきちんと行い、何かあったときに記録を確認できるようにしておく必要がある。従業員の側も、普段から自身の健康を意識し、不調があれば会社や医療機関に相談するなど、早めの対処が求められることになりそうだ。

労基法 (出所:ゲッティイメージズ)

 また、企業は従業員のそれぞれ異なるニーズを把握し、仕事内容や働き方を調整していく傾向が強まるだろう。そうなると、従業員の側は「あなたはどうしたいのか?」と問われる場面が増えるはずだ。個人としては、その時々の希望や進みたい方向性を伝えられるよう、自律的にキャリアを考える必要性が高まる。

 報告書では「自発的な選択を行った人が、意図せず不利な状況に陥ることを防ぐ」「従来と同様の働き方をする人が不利にならないようにする」という観点も強調している。「自分でこの働き方を選んだのだから、多少の無理は我慢しなさい」とか「従来通りの働き方では、やる気がないとみなします」といったことがあってはならないのだ。

 どのような働き方を選んだとしても、必ず守られるべき労働者の権利があるということを、個人も企業も認識しなければならない。

 そして個人としては、不当な扱いを受けていると感じれば、自身で情報収集し、組合や仲間、公的機関などの助けも得つつ、会社と交渉していくことも必要になる。企業としては、人手不足が加速するなかで従業員と対立するのは得策ではない。個々の従業員と丁寧なコミュニケーションを重ねることで、トラブルを未然に防ぐことが重要になるだろう。

やつづかえり

コクヨ、ベネッセコーポレーションで11年間勤務後、独立。2013年より組織に所属する個人の新しい働き方、暮らし方の取材を開始。『くらしと仕事』編集長(2016〜2018)。「Yahoo!ニュース エキスパート」オーサー。各種Webメディアで働き方、組織、イノベーションなどをテーマとした記事を執筆中。著書に『本気で社員を幸せにする会社』(2019年、日本実業出版社)。

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