マーケティング・シンカ論

ローソンストア100「100円おせち」の苦闘 原材料高騰でついに「150円」登場

» 2023年12月20日 09時52分 公開
[武田信晃ITmedia]

 ローソンストア100は12月25日、前年と同じ全45種類の「100円おせち」を、全国の店舗で販売開始する。2012年の発売以来100円を維持していて、今回も31種類は価格を据え置いた。だが原材料価格の高騰、人手不足、ウクライナとガザ地区の戦争といった要因から、残り14種類を150円で展開せざるを得なくなったという。

 100円というポリシーを維持できなくなりアイデンティティー崩壊の危機が到来したともいえるローソンストア100。150円で抑え切った工夫と裏側の苦労に迫った。

全45種類の「100円おせち」

どうやって100円を維持したのか?

 そもそもおせち料理は、正月に小売店が休みで食材を買えなくなることからできた保存食だ。このため、多くのおせち料理は、家族が一緒に食事をすることを前提として作られてきた。だが核家族化が進んだことによって、お一人様需要も増えている。新型コロナウイルス期間中は人に会うのを避ける傾向もあり、必要な分だけ買える同社の「100円おせち」は需要を満たしていた。

 厚生労働省が発表した「2019年国民生活基礎調査の概況」によると、総世帯数5178万5000世帯のうち、単独世帯は全世帯の28.8%にあたる1471万8000世帯だ。社会構造が変化しているのが分かる。

 こうしたニーズを的確にとらえ「適量小分け」をテーマにした100円おせちの評判は高く、累計1500万食を販売した。ローソンストア100商品本部の近藤正巳本部長は「22年は販売量が前年より下がってしまいました。理由はコロナ渦の影響によって人手不足が深刻化し、十分な数量が生産できなかったからです。今回は何とか前年比105%を目指します」と話す。

ローソンストア100商品本部の近藤正巳本部長

 価格を100円にする工夫についてローソンストア100ではこれまで、6つの要素があることを明らかにしてきた。

1=「早期の数量確約」。ローソンストア100側は安く仕入れられ、取引先は早くに売り上げが確定するためウィンウィンの関係となる。原材料も計画的に調達できるため、ここ数年叫ばれている原材料費の高騰をできるだけ抑えられた

2=「サイズ不選別」。選別する手間ひまをかけない

3=「工場の計画的稼働・効率化」

4=「オフシーズンの工場を活用」。稼働率の向上という製造業の基本を忠実に実行した

5=「商品パッケージも標準化」。包材の価格も上昇しているため

6=「大量発注・大量生産」。規模のメリットを最大限に生かした

 物流網については従来、各メーカーが商品を作り、それぞれが配送センターまでトラックで運んでいた。これを、契約した配送会社またはメーカーに委託し、配送トラックを運営する形に変換したのだ。

 例えば、トラックは各店や配送センターに通常の商品配送を終えると中は空になる。空のトラックが各メーカーの工場を回って商品をピックアップし、配送センターに戻る『引き取り型の物流』に見直した。近藤本部長は「今年も基本的に同じシステムですが、前年まで数カ所に分かれていた配送センターを1、2カ所に集約させました」と話し、物流体制を改善させたことをアピールした。

減量と付加価値を同時に実行

 100円を維持するために、120グラムから85グラムに減量した商品が「御蒲鉾」だ。減量するだけであれば「ステルス値上げ」と消費者から不満の声が上がる可能性もある。それを防ぐため、鯛を混ぜることによって付加価値を上げた。

 「適量小分けと言いながら、かまぼこの量は『ちょっと多い』という声がありました。ローソンストア100の商品の中には85グラムのかまぼこもあり『ちょうどよい』という声もあったので、この量にしました。もし鯛を加えずに85グラムまで減量すると100円以下で販売可能ですが、鯛を加えることで、顧客満足度を上げる方向に振りました」

 客が求める量に減量した結果、100円を下回ったため、逆に付加価値をつける形で100円を維持したのだ。ステルス値上げに敏感な消費者を満足させる方策ともいえる。

減量と付加価値向上を同時にすることによって100円を維持した「御蒲鉾」

値上げは恐怖だった 「200円おせち」防いだ企業努力

 世の中はすでにインフレで値上げ基調ではあるものの、価格の設定次第では客が離れてしまう。近藤本部長は「値上げするのは恐怖でした」と本音を吐露する。

 「ただ、原価で100円を超えてしまった状況だったので、最初は分かりやすく100円、200円のラインアップで考えていました。一方で、これまで100円でやってきた歴史もあるので、なんとか安くできないかと関係者がさらに努力して、5月ころに150円でいけるめどが立ちました」

 世の中に値上げを受け入れる風潮ができたからこその判断なのか。

 「物価高で値上げを受け入れてもらえる土壌もあったので、一部商品を150円で売る決断を下せたところはあります。そうでなければ、100円で販売可能な商品のみにして、アイテム数を減らすことも考えました」

 今回のラインアップで、原材料費上昇の影響を最も受けたのは卵だった。鶏インフルエンザの影響によって価格が前年比で170%上昇したという。そのため「厚焼きたまご」「伊達巻」など卵系の4品は全て150円に値上げした。

盛り合わせの例の1つ「オードブルおせち」

中国の禁輸が逆に追い風に

 新商品の1つ「北海道産帆立煮」は、イレギュラーな形で商品化された。今回の100円おせちの生産プロセスでは、22年秋に準備をし、23年に販売計画を確定させ、24年版のおせちとして売った。

 ところが23年8月に東京電力福島第一原子力発電所に関連する多核種除去設備(ALPS)処理水を海洋放出したことによって、中国は日本からの水産物の禁輸を決定。北海道産のホタテが輸出できない状態に陥った。

 「輸出できなくなったという話を聞き、これは水産業者の助けになると思い、すぐ連絡を取りました。もう1品イレギュラーな形での商品となったのは『沖縄県石垣島洗いもずく』です。これは以前からアプローチをしていたのですが、なかなか実現しませんでした。今夏に漁師さんからやっと商品化を認めてもらえたのです。もともとは43品の予定でしたが、この2品を加えて45品のラインアップとなりました」

北海道産帆立煮。中国に輸出できなくなったホタテを活用

質を伴った形で200円、300円おせちを視野に

 円安が原材料価格の上昇につながっている。仮に日本銀行の金融政策が通常の状態に戻ったとしても、国力が下がっている日本では、日米の金利差が埋まっても1ドル100円を切る状況になることは考えにくい。つまり、全体的には円安基調が続く可能性がある。

 「次回は150円から100円に戻せればいいのですが、現在の世界情勢では実現は難しい。それどころか、150円の維持も困難になる可能性があると考えています」

 これからの品ぞろえを考えると、それよりも値段の高い商品も視野に入れている。その代表となりそうなのが「イクラ」だ。

 「商品化の要望をもらっていますが、150円であれば微量になってしまいます。300円であればそれなりの量で販売が可能です。今回の150円商品の売れ行き次第ですが、質が伴う形であるならば200円、300円の商品も受け入れていただけるかもしれないと考えています」

 すっかり定着したECでの販売は、店舗でおせちを受け取るローソンアプリと自宅配送をしてくれるネットショップのSTORESでの予約を受け付けている(ローソンアプリは12月17日で受付終了、自宅配送のECは12月22日まで受付)。今回からは、自宅配送をしてくれる「au PAY マーケット ダイレクトストア」も利用できるようにした。ローソンが近くにない人にとっても、利用価値を高くした形だ。

「100円おせち」の名称が変わるか?

 昨年の記事で「100円おせちが消えるかもしれない」と書いた。今回の円安の中で、全体の7割の商品で100円を維持できたのは、関係者の努力のたまものだ。インフレの流れが昨年以上に加速したため、近藤本部長が語っていたように今後は200円、300円の商品が出てくる可能性は低くなく、もはや「100円おせち」という名前の維持は難しそうだ。消費者もこの現実を受け入れる必要がある。

 一方で、かまぼこが良い事例だが、付加価値をつけて値段に見合った商品であれば、消費者もそれなりに受け入れるはずだ。今後、商品開発の重要性が増すことは避けられないだろう。適切に付加価値を付けられなければ、ただ値上げしただけになり、100円時代よりも販売が厳しい時代がくるかもしれない。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.