JR東海、JR東日本、JR西日本、JR貨物がチャレンジする次世代エネルギー 実現までは遠くても、やらねばならぬ杉山淳一の「週刊鉄道経済」(2/7 ページ)

» 2023年12月24日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

 実験の初期段階のため車両はまだつくられていない。公開された試験は、模擬台車を使って電車の運転と同じように走らせる。いわばランニングマシンの電車版である。停止状態から「発車」して加速、時速75キロメートルに達して惰行、時速13キロメートルまで減速して再加速、再び時速75キロメートルまで達して惰行、減速、停止という内容だった。

トヨタが外販している燃料電池ユニット(筆者撮影)
銀色の大きな箱が燃料電池を冷却するラジエーター。燃料電池は化学反応のため発熱する。出力が大きいほど冷却装置も大きくなる(筆者撮影)

 燃料電池は、模擬台車のある実験棟から離れた場所にあった。シューシューという大きな音がしていたけれども、これは燃料電池を冷却するラジエーターと、水蒸気を放出する音だった。燃料電池そのものは大きな音を出さない。しかしラジエーターの大きさが気になる。鉄道車両の床下に置くには大きすぎる。これは実験のため大きめにしたとのこと。実験を重ねて最適なサイズが決まれば、もっと小さくなるはずだ。

燃料電池から排出される水蒸気(筆者撮影)

 JR東海が求める性能は、高山線や紀勢線などの長距離路線で、しかも20パーミル(1000メートル進むと20メートルの高低差)の急勾配区間があり、そこを高速運行すること。具体的で苛酷な条件である。分かりやすいイメージとして、ハイブリッド気動車HC85系のディーゼルエンジンを燃料電池または水素エンジンに置き換える。

HC85系。国内初のシリーズハイブリッド特急形車両。ディーゼルエンジンで発電してモーターを回す。いわば発電所搭載電車だ(筆者撮影)
水素エネルギー搭載の考え方。HC85系のディーゼルエンジン部分を燃料電池や水素エンジンに置き換える。水素タンクは屋根上の搭載を検討中(JR東海資料)

 22年夏にデビューしたばかりのHC85系が老朽化し、次の車両に置き換えるころには水素エネルギーを実現させたい。そうなると目標年度は20年から30年後。国を挙げてカーボンニュートラルをめざす50年にほぼ一致する。

大型実験棟にある模擬台車。新幹線用施設を流用しているため線路は標準軌(筆者撮影)

 台車の車輪の下にレールの役割をする円盤が回っている。この円盤の転がり方を変化させて、坂道などの上りにくさ、転がりやすさを再現する。ランニングマシーンの原理だ。台車の上は車体の重みを再現する骨組み。車輪の周囲のサーキュレーターは走行で受ける風を再現し、台車を冷却する。

 台車だけ見ると電車の走行試験と変わらない。しかし司令室のモニターを見ると、発生した電力量、投入された水素の流量がリアルタイムで分かる。これから最高時速80キロメートル以上へ挑戦し、今後は30パーミル勾配に相当する負荷をかけていくという。

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