JR東海、JR東日本、JR西日本、JR貨物がチャレンジする次世代エネルギー 実現までは遠くても、やらねばならぬ杉山淳一の「週刊鉄道経済」(7/7 ページ)

» 2023年12月24日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]
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鉄道にとって水素とは

 23年11月1日、国土交通省は「水素燃料電池鉄道車両等の導入・普及に関する連絡会」を設置し、第1回の会合を開いた。JR旅客会社6社、JR貨物、鉄道総合技術研究所、日本民営鉄道協会、第三セクター鉄道等協議会が参加した。招集の趣旨は「水素鉄道車両の実用化は海外が先行している。日本も各社単独ではなく情報を共有しながら連携しよう」ということらしい。

 海外ではドイツが18年から燃料電池列車の試験運行を開始、22年から営業運行を始めた。その後、カナダ、スイス、英国、中国が実用化している。車両メーカーはドイツのシーメンス、フランスのアルストム、スイスのシュタドラー、ポーランドのペサ、中国中車大同電力機車が参入している。中東でも23年10月からサウジアラビア鉄道公社が、フランス・アルストム製の燃料電池旅客列車の試験運行を開始した。

 JR東日本とJR東海はどちらも燃料電池車両を開発するけれども、JR東日本は通勤型、JR東海は長距離特急形である。求められる性能が違うから、開発の重複には当たらない。しかしJR東海も通勤区間があるし、JR東日本も非電化で勾配区間を持つローカル線がある。JR北海道やJR四国も水素燃料車両は欲しい。JR西日本は姫路エリアの協業のなかで燃料電池車両の検討を始める。ノウハウの共有は必要かもしれない。

 地方の電鉄では水素燃料車両を導入すれば、架線と受電変電設備が不要になる。保守費用の大幅な削減につながるだろう。

 カーボンニュートラルが提唱される前、二酸化炭素を減らそうという時期において、鉄道会社は「マイカーやバスより環境に優しい鉄道に乗っていただくことが二酸化炭素削減だ」と主張していた。それはもっともな話だけれど、地方ローカル線については、ひとつの車両に10人程度の乗客だと、自動車やバスより1人当たりの二酸化炭素排出量が増えてしまう。

 JR本州3社は、鉄道車両の二酸化炭素排出量がとても小さい。JR東海の場合、非電化区間のディーゼルカーから発生する二酸化炭素排出量は7万トンで、会社全体の約5%だ。会社の排出量の大半にあたる118万トンは、電車と施設が消費する電力の使用によるものだ。JR西日本のエネルギー消費量のうち、運転用燃料は会社全体の約2.7%だ。つまり、電力のゼロカーボンは電力会社の発電方法に依存する。例外は自前の火力発電所を持つJR東日本だ。この会社もいずれ水素発電に移行すると表明している。発電所は川崎にあるから、水素利用としては好立地である。

JR東海の二酸化炭素排出量のうち、ディーゼルカーは全体の約5%。しかしこの5%を放置すればカーボンニュートラルを達成できない(JR東海資料)

 しかし50年までカーボンニュートラル、ゼロカーボンを達成するとなると、ローカル線のディーゼルエンジンは廃止する必要がある。そのあとの選択肢は4つだ。既存のエンジンをカーボンニュートラルのバイオ燃料で動かすか、蓄電池車両か、燃料電池か、水素エンジンである。JR東海の水素エネルギーの取り組みは始まったばかりで、実用化までどれほど開発費がかかるか分からない。

 50年までに、なんとしてでも非電化路線でゼロカーボンを達成しようとするなら、現状で最も確実な方法はいっそのこと「電化する」だけれども、それは「自分だけ助かろう」という考え方に見えてよろしくない。水素エネルギーの開発をがんばってほしい。前述のとおり、鉄道が水素を活用することで、水素の需要が増えてエネルギー単価が下がる。貨物列車で水素を運び、水素供給拠点が広がって、自動車その他、地域の水素活用が進むだろう。だから私は水素エネルギーを強く推したい。

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

乗り鉄。書き鉄。1967年東京都生まれ。年齢=鉄道趣味歴。信州大学経済学部卒。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。出版社アスキーにてパソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年よりフリーライター。IT・ゲーム系ライターを経て、現在は鉄道分野で活動。著書に『(ゲームソフト)A列車で行こうシリーズ公式ガイドブック(KADOKAWA)』『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。(幻冬舎)』『列車ダイヤから鉄道を楽しむ方法(河出書房新社)』など。公式サイト「OFFICETHREETREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」。


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