JR東海、JR東日本、JR西日本、JR貨物がチャレンジする次世代エネルギー 実現までは遠くても、やらねばならぬ杉山淳一の「週刊鉄道経済」(6/7 ページ)

» 2023年12月24日 08時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

水素エネルギーの輸入は日本の国土を守る

 車両を開発しているJR東日本やJR東海に比べると、JR西日本とJR貨物の取り組みは地味だ。しかし水素エネルギーにとって最も重要な部分は「調達と供給拠点」。なぜなら水素エネルギーは、すべてゼロカーボンではないからだ。川崎の水素は副産物だから仕方ないとして、国内で生産される水素の原料は石油や液化天然ガスだ。

 水素供給大手のイワタニのサイトによると、ほかに石炭を蒸し焼きにしてつくる方法もある。しかしどれも二酸化炭素を出してしまう。このような水素は「グレー水素」という。副産物の二酸化炭素を大気に放出せずに地下深くに埋めると、ブルー水素と呼ばれる。一応クリーンな水素である。ちなみに埋められた二酸化炭素は数百年から千年かけて地下水や岩石と化学反応して炭酸塩岩として固定されるという。

 完全にクリーンな水素は、水を電気分解して取り出す水素だ。二酸化炭素を全く出さないのでグリーン水素という。しかしここで引っかかる。生成に電気を使うとは。その電気はどうやってつくるんだ。火力発電所でつくったらそこで二酸化炭素が発生する。再生エネルギーなら完全にクリーンだ。風力や水力、太陽電池で電気をつくればいい。

 ところが困ったことに、再生エネルギーに最も必要な資源は「土地」である。そして島国の日本は土地が少ない。森を切り倒して太陽電池を敷き詰めると、環境維持として本末転倒だ。正しく施工しないと山崩れの原因になる。風力発電は景観破壊になりがちだ。オンライン署名サイト「change.org」で検索すると、約60カ所で反対運動が起きている。ならば水力はどうか。これ以上ダムを造れるだろうか。

 そんな八方ふさがりを打開する方法もやっぱり水素だ。水素は液化して貯蔵し、運搬できる。日本よりもっと土地があるところで再生エネルギー発電を行い、その電力で水素をつくり船で運べばよいのだ。冷却には電気を使うけれども、それも水素で発電すればよい。

 関西電力と川崎重工が協働する理由がこれだ。川崎重工は水素の製造、液化、貯蔵、運搬船、発電のノウハウを持っている。19年に液化水素運搬船「すいそ ふろんてぃあ」を進水し、20年に神戸港で世界初の液化水素荷役ターミナルを納入した。日本とオーストラリア政府の支援を受けて、オーストラリアの褐炭田からブルー水素を抽出し、液化して日本に運ぶプロジェクトが進む。LNGや石油と同じように、クリーンな水素を輸入できる。

 姫路港に大型水素運搬船が寄港できるようになれば水素の価格も下がるという。現在は1立方メートル当たり約100円、これは既存燃料の約12倍だ。しかし大量輸入によって、1立方メートル当たり約30円まで下げる目標だ。

川崎重工が担う水素サプライチェーン(出典:川崎重工、川崎重工技報 182号 国際液化水素サプライチェーン構築への取組み

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