「無料で通い放題」のカラクリは? 相次ぐ脱毛サロン倒産、その“詐欺的”なカネの流れ古田拓也「今さら聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)

» 2023年12月29日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

 2023年の脱毛サロン業界では倒産が急増している。帝国データバンクによれば、23年9月までに、脱毛サロンによる負債総額1000万円を超える破産事例が9件確認されている。今月15日には新たに「銀座カラー」が破産し、過去最大規模だとして話題になった。

 TikTokやInstagramといったSNSでアメリカンスタイルの広告展開を推進していたウルフクリニックや、エステ脱毛を提供し、全身脱毛通い放題のプランで知られていたシースリー、脱毛ラボなども名を連ねており、大規模かつ有名なサロンの倒産事例が相次ぐ。

 渡辺直美氏を起用して積極的に広告展開を行っていたキレイモも22年に従業員への給与未払いトラブルや顧客との返金トラブルが相次いだ末、23年にミュゼプラチナムに店舗譲渡を行った。旧来の顧客と締結した永年無償プランも事実上打ち切りとなるなど、譲渡後も顧客の納得を重要視されているかには疑問が残る。

 駅やテレビといった権威性のあるメディアや有名人を起用することで女性の若年層をターゲットにする脱毛サロン業界。足元では、SNSを中心に、お試し施術で高額なギフト券をプレゼントするという趣旨の広告展開も流行している。しかし、その内実は「美容版ポンジスキーム」とよんでもいいほどの、ずさんな内容であると言わざるを得ない。

「無料で通い放題」 その“詐欺的”な仕組み

photo (提供:ゲッティイメージズ)

 そもそもポンジスキームは、新たな投資家からの資金で既存投資家へ高額な配当を支払う詐欺的な投資計画をいい、最終的には持続不可能となって崩壊するスキームだ。

 これを美容版ポンジスキームというのであれば「新規顧客からの前払い金を前提に、既存の顧客に対し、高額なギフト券や無料での通い放題サービスを提供する」ものだといえるだろう。末期には徐々に顧客を獲得するための広告費に多額の予算が投じられ、既存顧客へのサービスや、時には従業員への給与すらも広告費に回すこともある。新規の顧客が得られなくなったら、倒産するのみだ。

 元凶は、顧客からの前払い金に依存したビジネスモデルにある。サロンが提供する前払いプランは、顧客にとっては初期費用が高いものの、長期にわたるサービス提供を約束する。しかし、この資金が運営資金として使われると、サロンが倒産した際には顧客はサービスを受けられず、支払った対価に見合うサービスを回収できないリスクが生じる。

 顧客が支払った代金のうち、まだサービスを受けてない部分についてはサロン側が「負債」として認識すべき金額となる。銀座カラーが58億円にも上る負債総額で破産したのも、お金の貸し手は「銀行」ではなく、一般顧客が「貸した」お金だからこそ成し得た業だ。

 銀行の融資にあたっては、プロの銀行員が倒産するリスクや既存の負債状況などを厳格にチェックして融資稟議を行うが、一般顧客はそのような情報をチェックするすべもない。顧客としても「お金を貸した」という認識がないまま代金を支払うケースも少なくないだろう。

 この問題に対して、業界内外からは規制の必要性が指摘されている。顧客の前払い金を保護するための分別管理、透明な財務報告、そして顧客保護を目的とした法的枠組みの整備が求められている。消費者保護団体や業界団体も、不正行為や不当な商慣習に対する啓発活動を強化し、消費者の意識を高める努力が必要だ。

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