照明をあきらめたわけだが、すぐに「イヤリングをつくろうー!」となったわけではない。いまは耳たぶからセンサーを使って脈の動きを推定しているが、声のデータはどうか。いや、筋肉もありかもしれないし、脳波もありかもしれないなどと考えた。
いろいろ試したものの、実際にデータを取得するにあたって、抵抗感を覚えるモノは難しいことが分かってきた。筋肉の周りに何かを装着するのは日常生活の邪魔になるし、頭の周りに何かを付けていれば他人から怪しく感じられるかもしれない。声、筋肉、脳波などを試してみたものの、うまくデータを取得できないこともあって、とりあえず断念することに。
自分のデータを取得して、それを他人に共有する――。その際、違和感がないモノは何か。また、データをうまく取得できるモノは何か。あれこれ考えていくうちに、さらに条件を増やしていった。できれば持ち運べるモノがいいよね、データをインプットする部分とアウトプットする部分が一体化しているほうがいいよね、体に身に付けるモノがいいよね、といったことを議論していった。
次に、どこに付けたらよいか、といったことも話し合うことに。ブレスレットもありだし、ネックレスもありかもしれない。そんなことを考えていたところ「イヤリングがいいのではないか」といったアイデアが浮かんだ。イヤリングを取り外しする部分は体に密着しているので、データを取得しやすいし、持ち運びもできる。脈拍に応じて色を変化させるので、インプットとアウトプットの一体化も可能である。
イヤリングであれば、自分がときめいていることは分からないけれど、他人には分かる。エンタメ性があって面白いかもしれない、ということでいまの形に決めた。
コンセプトが決まったので、次はものづくりである。しかし、ここでも課題が浮き彫りになった。山本さんは数理心理学(数学的手法を導入した心理学の一分野)や感性工学(論理的に説明しにくい反応を、科学的手法で分析すること)を専門としていて、基板設計などプロダクトは門外漢である。
東京・秋葉原の電気街に何度も足を運んで、企画に適した部品を見て回った。「これはどうかな。無理かも」「いや、これはいけるかもしれない」といった具合に使えそうなモノを探して、試行錯誤を繰り返す。なんとか完成させたものの、問題はサイズである。手のひらサイズだったのだ。
さすがにイヤリングとしては大きい。このままでは商品化が難しいということで、基盤設計などを得意とする企業の協力を得て、直径3センチまで小型化に成功した。試作品の数は30個を超え、要した時間は1年半ほど。ようやくときめきを可視化するイヤリングが世に登場したのだ。
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