女性のほうが「3割」賃金が低い 雇用形態の差だけではない、根深い原因(2/2 ページ)

» 2024年01月25日 08時00分 公開
[今井昭仁ITmedia]
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原因は雇用形態の差だけではない

 コラム「人的資本情報開示に先行対応した企業の有価証券報告書から何が学べるか」でも指摘したように、上記のような男女の賃金の差異が生じている理由は、各社異なると考えられる。各社が自社の賃金の差異の理由を認識することが重要なのは、それが改善の取り組みの前提となるからだ。

 また、求職者にとっても、その差異が自身にとって容認できるものか、またその差異を生んだ人事制度が自身に受け入れやすいものかを判断する情報となるため、その意味するところは大きい。一方、実績値とは異なり義務ではないことから、理由の記載が一律になされているわけではない。

(ゲッティイメージズ)

 それでは、男女の賃金の差異の実績値を記載した336社のうち、理由を追加的に記載した企業はどのくらいあったのだろうか。確認したところ、男女の賃金の差異が生じた理由について記載していた企業は200社だった。これは男女の賃金の差異を記載した336社の59.5%に当たる。

 理由の説明の中身や分量には大きな差があったが、「制度上、賃金の差異はありません」という趣旨の文がよく見られた。これは「職位や職種が同じであれば、賃金テーブルも同一であり、その限りで問題は生じない」という論理構成に基づいている。この時「男女が同じように評価されている」ことの重要性は非常に高いが、一方で、これを満たすことは難しい。

 この点を考えるために着目すべきことは、制度ではなく、運用である。具体的には、配属や異動、業務割り振りなどを判断する際のバイアスに注目することが重要と考えられる。

 例えば特定の部署に配属されると昇進昇格しやすい企業において、その部署への配属が男性に偏っていれば、結果的に役職者は男性が占めることになり、制度上、賃金テーブルが同一だとしても、男女の賃金の間には差異が生じる。つまり、こうした場面で(たとえ無意識だとしても)何らかのバイアスが介在していれば、それが直接的な原因とならなくとも男女の賃金の差異を生む遠因となり得ることに注意が必要だ(※2)。

※2:こうした問題へのアプローチとして、アンコンシャス・バイアス研修を思い浮かべるかもしれない。これは今後の運用において生じうるバイアスを軽減する点で効果的だが、既に生じた賃金の差異を改善するものではないため、異なる方法でアプローチする必要がある。中途採用が多数を占める企業において、採用時のオファー金額の差が男女の賃金の差異に繋がっていたことを分析によって突き止め、女性従業員を対象に報酬調整を実施したものとして、次の例がある。Business Insider「メルカリ社員、男女の賃金に37%の格差。職種・グレード同じ男女に「説明できない」差が生じた理由」(23年10月11日アクセス)

まとめ

 ここまで見てきたように、日本の大手企業の有価証券報告書からは、依然女性の賃金のほうが男性の賃金よりおよそ3割低いことが分かる。しばしば男女の賃金の差異は雇用形態の差に求められるが、この差は正規労働者や非正規労働者に限定しても生じており、問題はより根深いことを理解されたのではないだろうか。

 また、有価証券報告書には、こうした差異の理由として制度上問題ない旨が記載されていることが多い。そうであれば運用に目を向け、着手する必要性を強く認識する必要があるだろう。

 また、冒頭でも触れたように、不平等の問題は男女の賃金の差異だけにとどまらない。国際的な動向も念頭に置きながら、社内外に潜むさまざまな不平等の根絶のための積極的な取り組みが企業には求められている。

今井 昭仁

London School of Economics and Political Science 修了後、日本学術振興会特別研究員、青山学院大学大学院国際マネジメント研究科助手を経て、2022年入社。これまでに会社の目的や経営者の報酬など、コーポレートガバナンスに関する論文を多数執筆。

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