それでは、会社員は何をきっかけ・理由に読書をしているのだろうか。
それを見たのが図4である。「仕事で知識不足を感じたため」(23.8%)、「収入のアップにつなげたいため」(12.2%)といった、自身が設定した目標を達成するためもあるが、他の項目を大きく引き離して1位になっているのは「学ぶことが好きだから」(40.9%)である。何より学ぶことが好きだから読書をする――こうしたシンプルな動機が会社員の読書を支えている。
学ぶことが好きだから読書をする会社員は、その読書によって何を得ているのだろうか。
読書による変化について「学ぶことが好きだから」というきっかけ・理由で読書をする会社員と、それ以外のきっかけ・理由で読書をする会社員を比較したのが図5である。「特に変化はない」は、「学ぶことが好きだから」と回答した会社員では10ポイント以上低くなっている。
すなわち「学ぶことが好きだから」というきっかけ・理由で読書をする会社員は、読書によって多くのプラスの変化を感じているのだ。
注目したいのは「学ぶことが好きだから」と回答した会社員が感じる変化の1位が「さらに学ぶ意欲が高まった」(36.4%)ということである。2位以降も見ると、読書をすることでプライベートが充実したり、仕事においてさまざまなプラスの変化があったりしていることから、学ぶことが好きという理由で読書をすることには学びの好循環とでも呼べるものがある。
これまでの議論から浮かびあがってくるのは、仕事やプライベートにまで及ぶ「読書の楽しみ」のもつ広範な影響である。パーソル総合研究所の調査「リスキリングとアンラーニングについての定量調査」において、他者を巻き込みながらともに学ぶ「ソーシャル・ラーニング」が「リスキリング」と強く関係していることが示されていた。
近年、会社内で読書会を立ち上げる動きがあるが(※2)、読書会は「ソーシャル・ラーニング」と相性が良いと思われる。そう考えると、社員にとってやらされ感のない読書会をどう組織できるか、社員を読書好きにするにはどのような仕掛けが必要か――リスキリング、ひいては人材開発においてこうした問いを検討することは、決して小さくない意味を持つのではないだろうか。
※2:「社会読書会のススメ」(23年10月13日アクセス)。また、近年読書会をめぐる書籍も立て続けに刊行されている。山本多津也『読書会入門』(幻冬舎新書、2019年)、竹田信弥・田中佳祐『読書会の教室』(晶文社、2021年)など。
本コラムでは、民間企業の会社員(正社員)が就業時間以外で読書をすることの意味を「働く10,000人の就業・成長定点調査」の結果(23年)に基づいて検討した。
本コラムのポイントは、次の通りである。
- 会社員のおよそ5人に1人が(勤務先外での学習・自己啓発活動として)読書をしている。性別による読書率の差はほとんどない。年代別に見ると、60代のみやや高く20%台後半だが、20代〜50代の読書率はほぼ同じ20%台前半である。高学歴になるほど読書率が高くなり、大学院卒では30%を超えている。年収別では、年収が高くなるほど読書率も上昇する。読書をする会社員は読書をしない会社員よりも資格取得のための勉強や語学学習、副業などもしていた。こうした学習意欲の高さが仕事に良い影響を与えて高い評価につながり、年収をあげることに結びついていると考えられた。
- 読書のきっかけ・理由としては、仕事に関連する目標を達成するための手段として読書をするようになったという面も見えてきたが、他の項目を大きく引き離して1位だったのは「学ぶことが好きだから」であった。
- 「学ぶことが好きだから」というきっかけ・理由で読書をする会社員は読書によって多くのプラスの変化を感じていた。読書をすることでプライベートが充実したり、仕事においてさまざまなプラスの変化があったりするだけではなく、学ぶ意欲をさらに高めていた。こうした読書の効果を考えたとき、社員にとってやらされ感のない読書会を会社としてどう開催するか、社員を読書好きにするにはどのような仕掛けが必要かを検討することが、「リスキリング」や人材開発において小さくない意味を持つと思われた。
本コラムが、読書と「リスキリング」の関係を検討する一助となれば幸いである。
日本社会事業大学、岐阜大学、山梨学院大学の教員を経て、2023年4月より現職。大学教員としてはキャリア教育科目の開発・担当、教養教育改革、教員を対象とした研修運営などを担当。研究者としては、主に若者の学校から職業世界への移行、大学教職員や専門学校教員のキャリアに関する調査に関わってきた。
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