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サムスンも誘致 横浜市にはなぜスタートアップが多く集まるのか(3/3 ページ)

» 2024年02月06日 12時31分 公開
[大久保崇ITmedia]
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「YOXO FESTIVAL」でスタートアップと市民の交流を創出

 子育て領域でも良い事例が生まれている。例えば、スクールシャトルシェアリング「hab」の実証実験を行ったhab(横浜市)の例だ。昨今は何らかの習い事に通いたい子ども、通わせたい親が増えている。しかし送迎にかかる負担がネックとなり、通わせられないと諦めるケースも少なくない。そこでタクシーを利用し、親の代わりに習い事の送迎を行うのがhabである。

 横浜市で実証実験を行ったところ、継続利用移行率は100%という結果が出た。「面白いアイデアから生まれたサービスを、世間に先駆けて横浜市民に体験していただける価値は大きい。こうした取り組みを今後も増やしていきたい」と、今後も意欲的に取り組む姿勢を見せた手塚氏。横浜市が目指す、スタートアップの創出による地域市民の生活利便性向上につながった事例だといえる。

 habのような国内スタートアップの創出を促進させるため、重要な場となっているのが「YOXO FESTIVAL」という展示会だ。24年は2月3日と4日の2日間に分けて開催されたが、23年は約70だった出展数は2倍の約140まで増えた。また、そのうちの半分以上が横浜市内に拠点を構えるスタートアップだという。この展示会は、出展も一般参加の入場料も無料だ。子ども連れの親など、地域市民の来場も含め、多くの人々が交わる機会となっている。23年の来場者数は2日間でのべ2万5575人だった。これほど大規模に市民と接点が持てる機会は、スタートアップにとってはこれ以上ないチャンスとなるだろう。

YOXO FESTIVAL(出所:公式Webサイト)

まだ道半ば。新しいメンバーとともに取り組みを加速させる

 手塚氏は「感覚的には、まだ横浜市は東京圏の一部という認知を出ていない。世界的に見ても、観光都市としての認知しかされていないのがほとんど」だという。しかし、「だからこそ、まだまだ伸びしろがあるので、もっと上を目指せる」と意気込みを見せた。

 こうした伸びしろを埋めていくための次の一手として、着手したのがキーマンとなる人材の採用だ。2023年6月、世界で戦えるスタートアップの創出と海外スタートアップ誘致の取り組みを加速させるため、エン・ジャパンと共同で「ソーシャルインパクト採用」を展開。グローバル・スタートアップ担当を担う人材を募集した。総勢728人の応募が集まり、その中から採用されたのが室田彩氏である。

「大手企業とのマッチングも成功している」と室田氏

 室田氏はインバウンドとアウトバウンド、両方の業務を担い、横浜市のスタートアップを海外へ送りビジネスマッチングを支援したり、前述したThe Driveryのような海外のインキュベーターやスタートアップを誘致したりしている。

 「横浜市のことを知らなかった海外の方に話をすると興味を持ってくれたり、実際の企業の視察では『こんなにも技術力が高いのか』と驚かれたりする。『日本に進出するなら横浜市で』という声も頂いており、大手企業とのマッチングも成功している」と手応えを語った。

 だが同時に、情報発信が不足していることも痛感したという。今後は横浜市のアンバサダーとなってくれる団体を増やしていきたいとのことだ。「決められた任期のなかで、実績をつくって惜しまれるくらいの存在になる」と力強く語った。

 歴史を振り返れば、横浜港は日本と世界をつなぐ貿易拠点として、海外のさまざまな文化を取り入れる街として栄えてきた。開国のきっかけとなったペリー来航からおよそ170年が過ぎた今、歴史的な舞台となった港町で新たな世界とのつながりが生まれようとしている。

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