楽天を襲った「23年ぶり」の異常事態 モバイル赤字減だけでは喜べない深刻すぎる現状(3/4 ページ)

» 2024年02月29日 05時00分 公開
[大関暁夫ITmedia]

知恵を絞れば絞るほど「ドツボ」に

 一方のARPUは、黒字化目安の最低ラインである2500円に対して、23年12月時点で1986円と、まだ月500円以上も上乗せが必要です。特に気になるのは、23年9月時点で2046円と一度は2000円台に乗せていたものの、再び1900円台に落ち込んでしまっている点です。

 これは、先にも述べた法人契約数の急増によるところが大きいと楽天側も認めています。法人契約はその性格上、電話やメールの利用がメインであり、他のサービス利用によるARPUの上昇は見込みにくいのです。この観点からも、やはり個人契約の増加が楽天モバイル黒字化のカギを握っている、といえるでしょう。

 その個人契約ですが、契約者に対する楽天ポイントの優遇付与サービス目的のみで「寝かし契約」をしている個人も多く、この点もまたARPU下げの要因となっています。今回、株主優待として提示した、全株主に対する「年間月30ギガ」まで使える自社の音声通話付きデータ通信の無料提供もしかりです。個人株主の新規契約を狙ったものでしょうが、収益にならない契約者を増やすことになり、ARPU面ではこれまたマイナス要因となるでしょう。個人契約の増強で知恵を絞れば絞るほどマイナス効果も生まれてしまう、というジレンマを内包しているのが現状です。

巨額の社債償還にも注目

 今回の決算会見で、モバイル事業と並んで取材陣の注目を集めたのが財務問題でした。焦点は、今年から続々と始まる社債償還対応のゆくえです。ひとまず23年度の償還予定分である800億円については、楽天証券株をみずほ証券へ売却し、楽天銀行株を海外市場で追加売却することで確保。しかし、24年度はさらに多額の3200億円、25年度には4700億円もの巨額の社債償還が待ち受けています。

 24年度については1月末に、年限3年のドル建て債18億ドル(約2650億円)の2月発行を発表し、23年の調達分と合わせて「24年のリファイナンスリスクは解消した。必要資金は全て確保済み」(廣瀬研二取締役 副社長執行役員)としています。

 しかし、ドル建て債18億ドルはあくまで既存債の借り換えに過ぎず、ジャンク債並みへの格付低下により、表面利率だけで年利は11.25%と金利負担も増えています。現状の赤字決算が続く限り、毎年償還の資金調達に追われる自転車操業状態は続くのです。

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