楽天を襲った「23年ぶり」の異常事態 モバイル赤字減だけでは喜べない深刻すぎる現状(2/4 ページ)

» 2024年02月29日 05時00分 公開
[大関暁夫ITmedia]

一気に契約回線が増えた「カラクリ」

 モバイル事業の黒字化に向けては、巨額投資を抑えると同時に、収入を増やすことが不可欠です。今回の決算発表で示したモバイル事業黒字化の目安は、契約回線数で800万〜1000万回線、ARPU(契約者当たり月平均収入)で2500〜3000円でした。すなわち、契約回線数とARPUをともにこの目標領域に到達できれば、黒字化が達成できるもくろみです。

黒字化に向けた目標も示した(同前)

 楽天モバイルの契約回線は、23年12月末時点で596万回線となっています。23年8月時点の契約回線数が約500万件(8月28日発表)であったので、4カ月あまりで100万件も増加した計算です。これはなかなかの数字ですが、ちょっとしたカラクリがあります。

 楽天モバイルが23年1月から法人向けのサービスを開始したことに伴って、全社を挙げて法人契約獲得に動いたのです。EC部門を中心として約90万社の法人取引がある楽天グループですから、この領域に一斉に営業をかけた成果が数字に表れたわけです。

 しかし、この手の既存マーケットへの切り込みは、常識的に考えて次年度以降も同じ勢いで獲得が進むようなものではなく、24年以降は大幅なペースダウンが予想されます。黒字化目安の最低ラインである800万件まであと200万件の差があるわけですが、やはり個人の契約数を増やさないことには安々とは到達できる数字ではないのです。

 個人契約の獲得増強で大きく立ちはだかるのが「通信の質」の問題です。つまり「室内でもクリアな音声でつながりやすい通信環境=プラチナバンド」水準の実現なのですが、ここが楽天モバイル側にして最大の弱点なのです。

 念願のプラチナバンド自体は、ようやく23年10月に認可を得ました。しかし、これを全国レベルで提供するには、基地局投資が必要なのです。プラチナバンド水準は実現したいが、投資は抑えたい。楽天が出した結論は、プラチナバンド投資を「投資10年計画」の後半に充てる、というものでした。すなわち、個人契約増強に不可欠なプラチナバンド水準の実現はまだまだ遠いのです。

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