自治体DX最前線

社長の移住に1000万円、従業員にも……広島県知事がインパクトある誘致策にこだわる納得理由(2/2 ページ)

» 2024年02月29日 08時00分 公開
[伏見学ITmedia]
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大工場を作っても人は集めにくい

――150社という数字はどう見られていますか。

 まだまだですね。広島県は人口の社会減が大きな課題で、特に若い人たちの流出を食い止めなくてはなりません。そのためには魅力ある仕事を、マクロレベルで用意することが非常に重要。ですから、もっと多くの企業に進出してほしいし、私たちも誘致するだけではなく、広島で起業したり、社内ベンチャー的に分社化したりできるよう、ビジネス環境の活性化に努めたいです。

――企業誘致における市町との連携で工夫されていることは?

 潮目が大きく変わったのはサンドボックスだと思います。サンドボックスは県が旗を振ってプロモーションし、市町も巻き込みながら取り組みました。それが連携強化のきっかけとなりました。今では県内各地での実証実験や実証フィールド提供に対して非常に協力的ですし、地域の皆さんにもサンドボックスのような施策は大事なのだと認識してもらいました。

 ただ一方で、竹原市のように市長がコミットしている市町はまだまだ少ないため、この点は引き続き強化していきたいと考えています。

「安芸の小京都」と呼ばれる竹原市・町並み保存地区

――全国的に見ても、企業誘致の主目的は雇用創出で、何百人、何千人も受け入れてくれる会社を求めるような地域がまだ多い中、広島はそれらとの差別化が図れていそうです。

 もちろんどこも誘致はしたいわけです。するとやや短絡的に、とにかく工場を作ったり、事務所を作ったりしてくれる企業を探してしまいがち。だけど、例えば広島のサンドボックスの場合、実証フィールドを提供したからといって、その企業が立地するかどうかは分からない。それでも皆で協力しようよと、県から強い意思を示しました。そういったやりとりを通じて、少しずつ市町にも理解してもらえたのではと感じています。

 それと、先ほど述べたパイプラインのようなコンセプトを常に意識しているので、今すぐここで雇用を生まなくても、最終的にそこへつなげていくために、まずは入口を広くしておくべきだという考え方が共有されていると思います。

 何よりも今、広島で大工場を作っても人を集めるのは大変ですよ。そもそも工場は既にたくさんあって失業率も低い。既存の県内企業だって全国に採用の手を伸ばしているけど、人員確保が難しい状況ですから。工場誘致さえできれば雇用の問題が解決するという考えではいられません。

広島にもっとロールモデルを作りたい

――他方、企業誘致に関する課題は何ですか?

 やはり人材の確保ですね。現地採用できないから進出を断念する企業もあります。特に足りないのが高度デジタル人材。それに向けて広島大学がデータサイエンスなどを研究する情報科学部を新設したり、情報・デジタル関連の学生が広島県内でそのまま就職すれば返還を免除する「ひろしまDX人材育成奨学金」を開始したりと、中期的に人材の育成と確保を進めています。

 繰り返しになりますが、進出企業もまだまだ増やしていかねばなりません。そのためにはロールモデルをいくつも作っていく必要があります。ユニコーン10もそれに当たるでしょう。そうした存在ができることで、県外の企業がひきつけられて広島に進出し、結果的により多くの雇用創出につながっていく。そんなビジョンを思い描いています。

 後編では、現場での工夫や具体的な実績について、企業誘致の実働部隊である商工労働局県内投資促進課のメンバーに話を聞く。

著者プロフィール

伏見学(ふしみ まなぶ)

フリーランス記者。1979年生まれ。神奈川県出身。専門テーマは「地方創生」「働き方/生き方」。慶應義塾大学環境情報学部卒業、同大学院政策・メディア研究科修了。ニュースサイト「ITmedia」を経て、社会課題解決メディア「Renews」の立ち上げに参画。


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