なぜ、A課長のような働かない管理職が存在し得るのでしょうか? 筆者は2つの理由があると考えています。
欧米の企業の雇用方法はジョブ型雇用が主で、管理職の職務内容と業績によって賃金が決定します。対してメンバーシップ型雇用が主流の日本企業は、年功序列をベースにして基本給を決めることが多く、入社後のある一定時期までは賃金が上がっていきます。そして、一度決定された基本給は会社が一方的に下げることができません。
また、働かない管理職を解雇しようとしても、合理的、社会通念的な理由が必要とされるなど難しいのが実情です。
特に中小企業で多いのですが、部長や課長に裁量がなく、全て社長や専務が業務指示を出し、権限を持っているケースもあります。管理職としてすることがなく、手持ち無沙汰になっていることも見受けられます。
A課長の場合、会社で明確な管理課長の職務が決まっていない限り、勤務時間中自席でPC作業をしている様態のみで、働かない管理職として評価することはできません。ただし、その作業中に長期間にわたり反復してゲームをしていたことに対しては、職務専念義務違反に該当し、立証された場合懲戒処分を受ける可能性があります。なお処分する場合は就業規則への記載が必要です。服務規程および懲罰規程にその旨の記載があるかどうか、内容を確認しましょう。
企業が働かない管理職を抱えるリスクは大きく次の2つが考えられます。
上司の仕事ぶりが良ければ部下の仕事に対するモチベーションは上がりますが、働かない管理職の場合はモチベーションが下がります。やる気の喪失は生産性や組織機能の低下につながります。特に若手社員が、上司のようになりたくないとか、一緒に仕事をしても自分のキャリアアップにはならないと考えた場合、転職することを選ぶかもしれません。良くも悪くも上司は部下のお手本になりやすいことを認識しましょう。
働かない管理職は中高年社員の場合が多く、若手社員に比べて賃金が高くなります。管理職として相応の働きがなければ、その分人件費の無駄使いになってしまいます。
労働力不足が叫ばれている中、働かない管理職を取り締まり対象とするよりも、会社の貴重な戦力として捉える方が理にかなっています。仮に会社を辞めてもらっても新しい人材の確保は難しいこと、定年退職後も65歳まで企業の雇用義務があることの2点を踏まえ、対策を講じていきましょう。
次はおもな一例です。
(1)管理職の職務内容を明確にする
組織運営を円滑にするためには、管理職ごとの権限と職務、責任範囲などを明確にすることで、管理職としての自覚を持たせることで、A課長のような勤務態様を改めさせることができます。逆に不必要なポストがあればなくすことも検討します。
(2)管理監督者向けの研修を受講してもらう
(1)を行った上で、管理職の自覚に欠ける社員に対しては研修を通じてマネジメント等を学んでもらう機会を設けるようにします。
(3)本人の意向を確認する
そもそも管理職になりたくなかったが、年功序列などの諸事情で仕方なく職務に就いていた場合、働かない管理職として勤務を続ける原因になります。本人に管理職として職務を全うする気持ちがあるか否かを確認する必要があります。
(4)他部署への異動なども検討する
本人に現在の部署における管理職の適性がない場合ややる気がない場合、可能ならば他部署への異動などを検討します。他部署の管理職になるか、専門職として活躍してもらうなど会社の実情と本人の希望に合わせて決めるといいでしょう。
1963年生まれ。旅行会社、話し方セミナー運営会社、大手生命保険会社の営業職を経て2004年社会保険労務士・行政書士・FP事務所を開業。労務管理に関する企業相談、セミナー講師、執筆を多数行う。2011年より千葉産業保健総合支援センターメンタルヘルス対策促進員、2020年より厚生労働省働き方改革推進支援センター派遣専門家受嘱。
現代ビジネス、ダイヤモンド・オンライン、オトナンサーなどで執筆中。
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