ソーシャル・キャピタルは米国で生まれた概念ですが、一説には「日本の企業からヒントを得た」とも言われています。
ソーシャル・キャピタルは「私」が「誰かとつながろう」と主体的かつ具体的に行動することで育まれ「一緒に立ち向かおう!」と結びついた集団は、協働が可能です。相互に尊重し、理解し、自分のプライベートな目的の達成を気にかける個人の集団ではなく、それを超えた“組織”や“協力グループ”を作り出す。それがソーシャル・キャピタルです。
メード・イン・ジャパンが世界を席巻した高度成長期は、そういった目に見えないつながりが、ワザとワザ、知と知を結びつけ、より高度な技や価値ある知を生み出すプロセスの重要な一端を担っていました。ソーシャル・キャピタルとは、まさしく「強い現場を支えるコミュニケーション力」。人と人がつながっている目に見えない力。組織も人も元気にする、目に見えない力なのです。
最近は「エンゲージメント」や「心理的安全性」といった言葉がよく使われますが、それらは全てソーシャル・キャピタルの概念が土台に存在しています。
ぼーっとする無駄な時間が、人間の想像力をかき立てることは、さまざまな心理学実験などでも確かめられています。
例えば、英イーストアングリア大学教授で心理学者のテレサ・ベルトンらは、過去の学者たちが明らかにした「無駄の時間の効用」の文献をレビューし、心が無になるような退屈な時間を経験することのある人ほど、発想力や創造力が豊かで、新しいことにチャレンジする傾向が強いことが確かめられました。
以前、脳科学を専門にする先生とお仕事でご一緒した時に、発想力や想像力は、脳に少しばかりの空きスペースができた時に生まれるということを教えてくださりました。必死で考えようと脳を酷使している時よりも、リラックスしたり、ぼーっとしたり、脳を休ませてあげる方がひらめくとか。
確かに、時間も発言者も、話し合う内容もガチガチに決められた会議よりも、くだらないことを話しながらダラダラやる会議の方が面白い発想が浮かんだり、会議室で机と椅子を並べてやるよりも一杯飲みながら話した方が、新しい戦略を思いついたりすることがありますよね。
脳の空きスペースがあってこそ、想像できるし、創造することも可能なのです。
さて、冒頭の実験結果では、8割もの人が、雑談やらお菓子やらを食べて気分転換しているとのこと。もし、あなたの職場にもそういった人がいたら、あなたも手を休めて、無駄話をしてみてください。そして、もし、あなたの職場が「余裕のない職場」「冷ややかな雰囲気が流れている職場」「異動による人の入れ替わりが激しい職場」なら、あえて「無駄」を作ってみてください。
どんな無駄かって? それこそ周りの「無駄づくりに賛同する社員」と無駄話をしながら、決めてください。ぜひ。
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。
研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)、『40歳で何者にもなれなかったぼくらはどう生きるか - 中年以降のキャリア論 -』(ワニブックスPLUS新書)がある。
2024年1月11日、新刊『働かないニッポン』発売。
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