「オーケストレーター」ってなに? Dell、アスクル、IKEAは他社の協力を得てビジネスを作り替えたビジネスモデルが分かる(5/5 ページ)

» 2024年03月15日 08時00分 公開
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オーケストレーターの成立条件

この一冊で全部わかる ビジネスモデル』(根来龍之、富樫佳織、足代訓史/SBクリエイティブ)

(1)既存のバリューチェーン内に“非効率な部分”があること

 アスクルやIKEA、Dellの例からもわかるように、オーケストレーターが成し遂げているのは、非効率で最適化されていないバリューチェーンの再構築です。例えば、文具の流通には在庫ロスや物流ロスが存在しており、パソコンの販売にも在庫リスクが存在していました。オーケストレーターを成立させるためにはバリューチェーンの中にこういった非効率な部分があることが必要です。

(2)外部資源や外部機能を確保できるか

 オーケストレーターを成立させるためには、外部資源や外部機能を調達することが必要です。例えば、IKEAは、家具部品の製造業務を外部の家具業者に外注することでバリューチェーンを再構築しました。

 しかし、外部企業にとって、新たなバリューチェーンに参加することは、既存の取引業者との関係を毀損する可能性もある行動です。そのため、オーケストレーターは外部企業に対して十分なメリットを提示し、自社に経営資源や機能を提供してもらうことが必要です。

【オーケストレーターの落とし穴】

 オーケストレーターがバリューチェーンを再構築しようとすると、既存のバリューチェーン内のプレイヤーからの反発が生じることがあります。例えば、アスクルの場合は、同社が既存の流通構造(卸や小売店)を省略して顧客へのダイレクト販売を行うように映ったため、業界団体から猛反発を受けたといいます。

 他にも、協力業者自体がオーケストレーターの事業領域に参入してくることもあります。例えば、台湾のパソコンメーカーであるASUS(エイスース)は、元々はDellにパソコンのOEM供給を行っていましたが、その後、自社ブランドを立ち上げてパソコン業界に参入しました。

【適用のための問いかけ】

  • 既存のバリューチェーンに存在する非効率な箇所を解消できる、新たなバリューチェーンを構想できるか
  • 既存のバリューチェーン内の他プレイヤーからの反発はないか
  • 自社の事業に協力してくれる外部企業にメリットを提示したうえで、パートナーシップを構築できるか
  • 自社の事業に協力してくれる外部企業は競合にならないか

参考文献

内田和成『デコンストラクション経営革命:ビジネスの興廃を制する』(日本能率協会マネジメントセンター、1998年)

相葉宏二・グロービス経営大学院(編)『MBA 事業戦略』(ダイヤモンド社、2013年)


この記事は、『この一冊で全部わかる ビジネスモデル』(根来龍之、富樫佳織、足代訓史/SBクリエイティブ)に掲載された内容に、編集を加えて転載したものです。


プロフィール:

根来龍之(ねごろ・たつゆき)

早稲田大学ビジネススクール教授

京都大学文学部卒業。慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了(MBA)。鉄鋼メーカー、文教大学などを経て2001年から現職。早稲田大学IT戦略研究所所長。早稲田大学大学院経営管理研究科長、経営情報学会会長、米カリフォルニア大学客員研究員などを歴任。著書に『集中講義 デジタル戦略』『プラットフォームの教科書』『ビジネス思考実験』『事業創造のロジック』(いずれも日経BP)、『代替品の戦略』(東洋経済新報社)、『IoT時代の競争分析フレームワーク』(編著、中央経済社)などがある。ネット系企業の顧問や既存企業のデジタル対応などの企業研修で実務と関わるとともに経営情報学会論文賞を3回受賞するなど理論構築も行う。

富樫佳織(とがし・かおり)

愛知淑徳大学准教授

学習院大学法学部卒業。早稲田大学商学研究科修了(MBA)。NHK(日本放送協会)ディレクター、放送作家、WOWOWでのプロデューサーを経て2017年から現職。

放送番組の受賞歴に、高柳財団第41回科学放送高柳賞企画賞、第2回衛星放送協会オリジナル番組アワード中継番組部門最優秀番組、WOWOWで放送された『Blueman Group Connect to Japan』で第40回国際エミー賞アート番組部門ファイナリストなど。著書に『やわらかロジカルな話し方』。ビジネスモデル、マーケティング戦略、メディア企業のデジタル戦略を研究分野としている。プラットフォーム企業のアドバイザー等も務める。

足代訓史(あじろ・さとし)

拓殖大学商学部准教授

早稲田大学商学部卒業。早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程単位取得満期退学。株式会社日本総合研究所研究員、早稲田大学商学学術院助教、ブリティッシュコロンビア大学(カナダ)アジア研究所客員准教授などを経て、2019年から現職。早稲田大学IT戦略研究所招聘研究員。専門は、競争戦略とイノベーション、アントレプレナーシップ。主な著書(分担執筆)に『1からのアントレプレナーシップ』(碩学舎)、『モバイルバリューの社会システム』(経済産業調査会)などがある。日本ベンチャー学会清成忠男賞(論文部門(奨励賞))受賞。大手企業・スタートアップにおける経営アドバイザーや社内研修講師もつとめる。


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