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大手新卒17年。自分のスキルは通用するのか?――ベンチャー企業に3カ月「留学」して得たもの(2/3 ページ)

» 2024年03月15日 07時00分 公開
[秋山未里ITmedia]

最も不安だった点は

 参加するにあたって、不安だった点は「人になじみ、入りこんでいくのは難しいのではないか」という、コミュニケーション面だったという。

 実際に働いてみて「風土の違いに驚くこともありました」と正直に話す。

 ただ「仕事の不安は、初めからあまりありませんでした」と自信を見せる。「これまでやってきたことに対する根拠のない自信がありました。もちろん、事前のインプットは入念に行い、自分の考えをまとめるなどの準備もしました」

 業務が始まると、手応えは大きかった。「業務の指示出しは的確で、スタートアップのスピード感は早いな、と思いました。でも、ついていけないわけではありませんでした」

渡邉厚太さん

 複業留学の期間中、渡邉さんは16社26人の担当者と会い、AlgaleXの商品を提案した。

 AlgaleXは、食品廃液などこれまで捨てられてきた未利用資源を使って藻や微生物を発酵させ、有効成分を作り出す技術を持つサステナブルフードテック企業だ。養殖魚のエサとなる魚粉は、天然魚に依存している。「養殖魚を育てるのに、多くの天然魚を魚粉にして与えないといけない」という矛盾を、DHAが豊富な藻を作って養殖魚に与えることで解消し、養殖産業の持続可能性を高められる。

 また、開発の過程で、泡盛の粕を用いて藻を発酵させることでうまみが豊富になることが判明。天然の植物性のうまみ食材「うま藻」として、商品化している。

本来捨てられてしまう泡盛の粕を用いて作られた「うま藻」を活用した商品(AlgaleXの通販Webサイトより)

 同社の事業は、海を守り、養殖産業を健全にしていく狙いがある。また、沖縄の産業バランスの問題や雇用の問題を改善させる効果も見込める。

 こういった社会的価値を説明すると、多くの人に魅力を感じてもらえた。ただし、決して安くはない商品であるがゆえにすぐに商談がまとまるものではなかった。

 そこでまずは導入実績をつくるため「他社に話すよりも先に、自分の会社で使おう」とDNPの社員食堂でうま藻をつかった沖縄そばを展開した。

 自社だからと言って口利きですぐに活用してくれるわけではない。社内の担当者に、AlgaleXの事業の背景にある思いやストーリー、そしてこの取り組みがDNPにもたらすメリットをまとめ、提案した。

 これを皮切りに、大阪府の小売店で一部商品の取り扱いが始まったり、大手百貨店の催事に参加が決まったりと販路を広げている。

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