顧客にとって「ゴールド会員」が全くうれしくない、納得の理由LTVの罠

» 2024年03月18日 08時00分 公開
[垣内勇威ITmedia]

この記事は、垣内勇威氏の著書『LTV(ライフタイムバリュー)の罠』(日経BP、2023年)に、編集を加えて転載したものです(無断転載禁止)。なお、文中の内容・肩書などは全て出版当時のものです。

 企業視点ばかりが先行して失敗を招きやすい典型例に、顧客の囲い込みを狙った安易な「会員プログラム」や「ロイヤルティープログラム」があります。

 複数サービスの利用促進や、他社サービスへの離反防止を狙って、自社独自の会員組織をつくります。そして「シルバー会員」「ゴールド会員」「プラチナ会員」などのランクを付け、独自のポイントを付与します。

一見お得な「会員プログラム」だが……(写真はイメージ、提供:ゲッティイメージズ)

 アプリ登録を促したり、会員証を発行したりすることもあります。ところが会員の特典は、わずかばかりのポイントや、どこにでもありそうなクーポンばかりです。顧客視点では、そこの会員になる経済的なメリットはほとんどありません。

 そのサービスを使い続けてポイントをためたいという気持ちよりも、他社サービスもいろいろ使ってみたいという気持ちが勝ります。わずかばかりのインセンティブでは、顧客を囲い込むことなどできないのです。

顧客は「ゴールド会員」なんて欲しくない

 「ゴールド会員」など名誉ある称号を与えれば顧客が喜ぶかといえば、全くそんなことはありません。自分が特に好きでもない企業から「あなたはゴールド会員です」といわれても、うれしいはずはないでしょう。

 もしうれしいケースがあるとすれば、既にそのブランドを愛しており、応援したいと思える状態になっている顧客に限ります。それは会員プログラムによってLTVが伸びるというより、LTVの高い顧客が会員プログラムを支持しているだけです。

 また特定のサービスをよく利用していてゴールド会員になったからといって、その会社が提供する別のサービスに興味を持つかといえば、そんなことも全くありません。あるホテルチェーンをよく利用しているからといって、そのグループ企業が提供する商業施設や賃貸マンションまで使ってくれる望みは薄いでしょう。

 多くの場合、同じグループ企業が提供していることにすら気付いていません。例えるなら、結婚して自分のことを愛していれば、自分の親のことも愛してくれるだろうというのと同じくらい傲慢(ごうまん)な発想です。

 安易な会員プログラムで顧客を囲い込むことはできません。なぜなら、囲い込まれることによって、顧客に提供される価値が極小だからです。

著者プロフィール:垣内勇威(かきうち・ゆうい) 

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WACUL 代表取締役

東京大学卒。ビービットから2013年にWACUL入社。改善提案から効果検証までマーケティングのPDCAをサポートするツール「AIアナリスト」を立ち上げる。19年に産学連携型の研究所「WACULテクノロジー&マーケティングラボ」を設立。研究所所長および取締役CIO(Chief Incubation Officer)として新規事業や新機能の企画・開発およびDXコンサルティング、大企業とのPoC(概念実証)など、社内外問わず長期目線での事業開発の責任者を務めてきた。22年5月に同社代表取締役に就任。著書に『デジタルマーケティングの定石 なぜマーケターは「成果の出ない施策」を繰り返すのか?』(日本実業出版社)など。

LTV(ライフタイムバリュー)の罠

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