アップルはなぜ「自動運転EV」の開発を終了したのか 考えられる理由は3つある高根英幸 「クルマのミライ」(3/5 ページ)

» 2024年03月22日 08時00分 公開
[高根英幸ITmedia]

グーグルが開けた、パンドラの箱

 そもそも既存の自動車メーカーは、自動運転の導入には乗り気ではなかった。開発費が膨大にかかる上に、走行中の事故に関してもメーカーの責任になる可能性が高まるからだ。

 しかし、グーグルがパンドラの箱を開けてしまった以上、追従しなければ存亡の危機にひんする可能性すら出てくる。そこで自動車メーカーも、サプライヤーやベンチャーとジョイントして、自動運転を開発する競争に参加したのだ。

 そしてレベル1、2と運転支援システムを実用化。レベル3のハードルの高さをどう攻略するか、自動車メーカーによって判断が分かれることになった。

 ところが肝心のグーグル(こう書くとグーグルが自動運転分野をけん引してきたかのように思われるかもしれないが、実際のところはそれほど技術力はなかったようだ)は、自動運転車がビジネスベースに乗るのは当分先のことと判断するとあっさりと撤退し、子会社に移行させる。話題だけを提供して自動車業界をかき回したのに、結局「なかったこと」にするのはいささかズルい気もしなくはない。

グーグルが開発していた自動運転EV。速度はゆっくりで、動画では再生速度を高めて公開していた。画像はグーグルのYouTubeより

 既存の自動車メーカーに立ち向かうには、圧倒的な商品性、独自の技術力とセンスが必要だった。グーグルの「自治体などに売り込んでまとまった台数を売り、自動運転車を街中に普及させよう」というアイデアは時期尚早だったのだろう。

 こうしてはしごを外された形の自動車メーカーと、先行開発分野で資金が集まりそうだと考えるベンチャーが残っただけで、自動運転分野は先の見えない戦いが続くことになったのだ。

 ただしグーグルが目指していたのは少人数で移動する低速車両で、高速道路を走る乗用車や街を走るコミュニティバスとは異なる。乗用車版の自動運転車と時速25キロ程度の低速で移動するコミュニティバスでは、求められる性能がまるで違うのだ。

 完全自動運転を早期に実現するのは、限られたエリアを走る低速車両になるのは当然の帰結だ。

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