自動運転が実現すると安全性が高まるのはもちろんだが、ドライバーは移動中に何をするかが問題になる。レベル2の運転支援システムまでは運転する必要があるから、それ以上のレベルの話だ。
レベル3、4でも高速道路など限定されたエリアだけが自動運転で、そこから外れた領域では運転しなければならないものの、自動運転中は読書や音楽、映像などのエンタメを楽しむことができるようになる。
レベル5の完全自動運転となったら、自宅を出るところから自動運転で、目的地の設定以外は座っているだけとなる。レベル4の高速道路モード同様、移動中に乗員に新たな価値を提供できなければ、自動運転車は安全運転をしてくれる運転手付きのクルマでしかなくなる。
ソニー・ホンダモビリティが開発しているEV「AFFELA(アフィーラ)」も移動中の新たな価値を生み出すべく、開発が続けられていると聞く。昨年のジャパンモビリティショーでは、一目見ようと来場者がブースに人だかりを作ったが、そこにあったのは前年に発表されたプロトタイプであった。内外装に液晶パネルを組み込み、さまざまな情報が表示できるようになっているものの、移動中に提供できるのは、やはりエンタメなのだ。
だがスマホやタブレットを持ち込めばできることを、クルマの装備として充実させても、訴求力は薄い。クルマに比べてソフトもハードもアップデートのスピードが早いスマホとでは、クルマはライバルになり得ないのだ。
アップルも移動中の新たな価値をどう提供できるかは、大きなハードルだったはずだ。これが3つ目の撤退理由になったことは想像に難くない。
クルマの電子制御がはるかに高度化されれば、ホイールや外装などをカスタマイズして乗り回すようなことは難しくなっていく。そうなると、パーソナライズされる楽しみもなくなり、シェアカーや自動運転タクシーばかりになっていく可能性もある。
自動運転車になれば、自家用車という概念は薄らいでいくかもしれない。しかしパーソナルな移動手段としてクルマは一定数購入、所有され続けるだろう。運転や移動中の景色を楽しむのがこれまでのクルマだとするなら、これからのクルマはどんな楽しみを提供できるのか。それがクルマの進化だとすれば、どんなアイデアを盛り込んでくるのか。
自動車メーカーやソフトウェアメーカーの創造力が試されている。
芝浦工業大学機械工学部卒。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。これまで自動車雑誌数誌でメインライターを務め、テスターとして公道やサーキットでの試乗、レース参戦を経験。現在は日経Automotive、モーターファンイラストレーテッド、クラシックミニマガジンなど自動車雑誌のほか、Web媒体ではベストカーWeb、日経X TECH、ITmedia ビジネスオンライン、ビジネス+IT、MONOist、Responseなどに寄稿中。著書に「エコカー技術の最前線」(SBクリエイティブ社刊)、「メカニズム基礎講座パワートレーン編」(日経BP社刊)などがある。近著は「きちんと知りたい! 電気自動車用パワーユニットの必須知識」(日刊工業新聞社刊)、「ロードバイクの素材と構造の進化」(グランプリ出版刊)。
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