オフピーク定期券「値下げ」の迷走、なぜ売れない? どうしたら売れる?杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)

» 2024年03月23日 08時15分 公開
[杉山淳一ITmedia]

思い通りにならなかった理由

 「オフピーク定期券」には2つの期待があった。1つは通勤ピーク時間帯の混雑緩和。もう1つは通勤需要の回復による増収だ。しかしいまのところどちらも失敗した。

 なぜ「オフピーク定期券」は売れなかったのか。いや約20万人に売れたという実績は大きいけれども、ピークシフトは起きなかった。最大の理由は「通勤利用者にとっても企業にとっても利点を感じられないから」だ。

 通勤定期券の費用は、一般的に会社が負担する。通勤利用者にとっては、値引きされたとしても差額が懐に入るわけではないし、臨時会議などやむを得ずピークタイムに出勤する用事ができた場合は普通運賃を払う必要がある。これも会社の負担だけれども、交通費精算などの手間がかかる。私は営業職時代、交通費精算が面倒だった。JR東日本の企業向けパンフレットによると、ピークタイムに利用した場合、Suicaの履歴にPマークが付くという。この履歴は誰が交通費伝票へ入力するのか。会社支給のオートチャージSuicaとしても、管理部門の手間が増える。

 企業にとっては、通勤費用の負担が減るから利点があるように見えるけれども、管理担当者の負担が大きい。交通費精算に特化したクラウドサービス「駅すぱあと 通勤費Web」によると、オフピーク定期券に関する企業側の対応としては、「社員一人一人についてオフピーク定期券に対応できるか、乗車駅とピーク時間帯をリストアップする必要があり」「社内の時差通勤の運用ルールを策定し」「ピークタイム通勤したときのイレギュラー精算も内規で定め」「運用ルールを踏まえて就業規則を変更」などが必要だ。

 【関連記事】オフピーク定期券とは? 導入にあたって企業がすべきこと(23年11月21日、駅すぱあと 通勤費Web ブログ)

 就業規則を変更するには、労働基準監督署に「変更後の就業規則」「就業規則変更届」、従業員に説明して同意を得た上で「労働組合または労働者の過半数を代表する者の意見書」を提出する必要がある。そう簡単に「安い定期券が出ました。いろいろ条件がありますがこっちにします」とはならない。

 特に最近は、“アフターコロナもすぐに終わり、通勤事情も元に戻る”という見方もありそうで、「コロナ対策の定期券」の必要性も薄れた感がある。

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