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続く賃上げ 「初任給バブル」に隠されたカラクリとは働き方の「今」を知る(4/4 ページ)

» 2024年03月28日 07時00分 公開
[新田龍ITmedia]
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固定残業制が認められる法的要件とは?

 メリットが多いゆえに多くの企業で採り入れられている固定残業制だが、一方で仕組みを誤解していたり、都合よく「いい所取り」をしようとしたりする会社も多く、トラブルにつながりがりがちなポイントだ。就職や転職の際には重々ご留意いただきたいし、人事労務担当者の皆さまも改めて自社の設定に違法性がないかご確認いただきたい。注意点は次の通りだ。

(1)求人票において、基本給と固定残業代を区別して表示しているか?

 固定残業代は、基本給や諸手当など他の賃金とは明確に区別して、具体的に表示しなければならない。

  • NG例:「月額25万円(固定残業代含む)」
  • OK例:「月額25万円(20時間分の固定残業代3万円を含む)」

 基本給金額は、残業代やボーナスの算定基準となる。あえて固定残業代部分を高く設定し、意図的に基本給を下げることで、残業代やボーナスの負担を軽くしようと目論む意地汚い会社もある。後々の金銭トラブルの原因ともなってしまうため、この点をあいまいにしている会社にはくれぐれもご用心いただきたい。

(2)残業実態を把握し、固定残業時間を超過した分の残業代はきちんと支払っているか?

 「あらかじめ固定残業代を支払っているため、いくら残業させても残業代はチャラ」だと勘違いしている人は意外と多い。しかしこれは明確な誤りだ。決められた固定残業時間を超えて残業をした場合は、当然ながらその分の残業代を追加で支払わなくてはならない。当然ながら会社側は、残業時間も固定残業制の有無にかかわらず、キッチリ管理し把握しておく必要がある。

 たとえ特別条項付きの36協定を結んだとしても、労働時間管理を怠り、「総残業時間は年720時間まで」「月45時間以上の残業は年6回まで」「残業時間は単月100時間まで」といった規定を超過してしまった場合は、罰則として「半年以内の懲役もしくは30万円以下の罰金」が科せられることになる。

(3)設定した固定残業時間未満の労働でも、固定残業代を支払っているか?

 さすがにここまでの誤解はないと思われるかもしれないが、まれに「固定残業として決められた20時間分の残業をしていないから、固定残業代は払わない」とする会社がある。当然、制度の主旨として明らかに間違いだ。

 固定残業代は残業しようがするまいが、毎月定額で支払われる制度である。たとえ残業を一切せずに定時で帰ったとしても、決められた固定残業代が支払われなくてはならない。

 特に判例では、以下の2つを満たさないと、労働基準法第37条違反で無効とされてきている。

  • 「通常賃金分」と「時間外賃金分」の明確な区別がなされているか
  • 時間外賃金分が割り増し賃金額の法的要件を充足しているか

 従って、固定残業制を導入・運用されている各社におかれては、雇用契約書へ明確に記載するか、賃金にまつわる合意書を取り交わすとともに、選考・採用時にキッチリ説明をすることを徹底いただければよいだろう。

 逆にそのあたりの説明があいまいで、求人票にも契約書面にも明示していない会社は、あなたを都合よく使い潰そうとする会社かもしれない。重々留意のうえで見極めていただくことをお勧めしたい。

提供:ゲッティイメージズ

 冒頭にも触れたように、人手不足が今後も続いていく中で、意欲も能力もある若手にきちんとお金で報いる会社が増え、他社もそれにならい報酬額がどんどん上がっていく展開は実に健全だ。ぜひ各社が競争しながら賃金を上げ続けていただくことを祈念している。

著者プロフィール・新田龍(にったりょう)

働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役

早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。「労働環境改善による業績および従業員エンゲージメント向上支援」「ビジネスと労務関連のトラブル解決支援」「炎上予防とレピュテーション改善支援」を手掛ける。各種メディアで労働問題、ハラスメント、炎上トラブルについてコメント。厚生労働省ハラスメント対策企画委員。

 

著書に『ワタミの失敗〜「善意の会社」がブラック企業と呼ばれた構造』(KADOKAWA)、『問題社員の正しい辞めさせ方』(リチェンジ)他多数。最新刊『炎上回避マニュアル』(徳間書店)、最新監修書『令和版 新社会人が本当に知りたいビジネスマナー大全』(KADOKAWA)発売中。

11月22日に新刊『「部下の気持ちがわからない」と思ったら読む本』(ハーパーコリンズ・ジャパン)発売。


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