Apple、Google……巨大ITが直面する独禁法問題、業界初の解体命令はあり得るのか

» 2024年03月27日 06時00分 公開
[ロイター]

 巨大IT企業が、過去数十年間で最大の逆風にさらされている。米国と欧州の独占禁止当局が、これらの企業の反競争的とされる慣行の取り締まりに乗り出し、米Apple(アップル)やAlphabet(アルファベット)子会社Googleが、業界として初めての分割解体命令を下される恐れまで出てきたからだ。

 欧米で実際にそうした措置が講じられれば、世界各地の当局が追随する流れが生まれてもおかしくない。

巨大IT企業が過去数十年間で最大の逆風にさらされている(ロイター)

Appleに「分割解体も排除しない」と米司法省

 米規制当局の主導で大企業が分割される事態になったのは、40年前のAT&Tが最後だ。前身のベル電話会社にちなんで「マザー・ベル」と呼ばれたAT&Tは1984年、7つの通信会社、いわゆる「ベビーベル」に分割され、20世紀で最も強固な独占体制に風穴が開けられた。

 ベビーベルのうち現在まで存続するのは本体のAT&Tと、ベライゾン、ルーメンの3社に過ぎない。

 そして、規制当局は現在、AppleやGoogleが自社製品を巡って参入不可能なエコシステムを築き、顧客を他社には簡単に乗り換えさせない仕組みを設けている、と主張している。

 米国の15州とともにAppleを反トラスト法(独占禁止法)違反で提訴した米司法省は、競争環境を取り戻す上で同社の分割解体も排除しないと警告した。

 欧州でもAppleやMeta Platforms(メタ・プラットフォームズ)、Alphabetなどへの監視の目は、より厳しくなりそうだ。

 事情に詳しい複数の関係者は3月21日、ロイター通信の取材に対し、巨大ITに自社サービス優遇を禁じた欧州連合(EU)の「デジタル市場法」(DMA)にこれらの企業が繰り返し抵触した場合、多額の制裁金支払いや、解体命令さえあり得ると明かした。DMAは今月発効した。

 EU欧州委員会のベステアー上級副委員長(競争政策)は2023年、Googleのデジタル広告分野での反競争的慣行を非難するとともに、セルサイドのツールを手放さざるを得なくなるかもしれないと指摘し、当局が思い切った措置を講じる道筋をつけたとも言える。

 ベステアー氏は、Googleのデジタル広告サービスにおける自社優遇を防ぐのに伴って、利益相反を避ける唯一の方法は一部資産の売却を義務付けることにあるように思われると発言している。

 この問題でベステアー氏は、年内に最終判断を下す見通しだ。

 EU欧州議会でDMA制定に深く関わったアンドレアス・シュワブ議員は、欧州議会としてはDMAに違反した巨大ITに対して大胆な措置を打ち出すことを望むと表明。「彼らがDMAを守らないなら、欧州議会は解体を求めると想像できる。最終的な目標は市場を開放し、公平化を進めてイノベーションを促進することだ」と語った。

巨大ITに解体命令、実効性は?

 ただ、規制当局がさまざまな選択肢を検討する中で本当に解体を命令するか、あるいは何らかの行動が制裁金処分につながるかはまだ相当に不確実だ。

 また、法律の専門家の見立てでは、今回司法省がAppleに対して起こした訴訟は、1998年のMicrosoft(マイクロソフト)提訴と比べても今後の道のりはより険しくなる可能性がある。

 欧州委のある高官は「EUでは企業分割を最後の手段とみなす伝統が比較的薄く、過去に実行されたこともない」と述べた。

 別のAppleに対する訴訟でアプリ開発者に助言している弁護士事務所ジェラディン・パートナーズの弁護士ダミアン・ジェラディン氏は、Appleの高度に統合されたシステムは、Googleよりも解体が困難になると予想。

 例えば、Appleにアプリストアの切り離しを強制することに合理性は乏しいので、事業慣行の修正を義務づける方が得策だとの見方を示した。

 一方、Googleについて同氏は、主要サービス強化を目的とした買収案件だけを対象に分割が命令される展開はあり得ると述べた。

 競争促進を提唱する団体オープン・マーケッツのディレクター、マックス・フォン・トゥーン氏は、米司法省が実行する確率がより高いのは、ハードウエアの機能の開放や、開発者が価格設定の面で不当な差別を受けないようにすることになりそうだとみており「彼らは全ての措置が検討されると言いたいのだと思う。しかし、必ずしもその道(分割解体)を選ぶことを意味しない」と付け加えた。

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