3月8日、集英社から発せられたある偉大な作家の訃報が世間を駆け巡り、世代を超えた多くの人々に衝撃をもたらした。その作家とは言わずもがな、鳥山明氏である。
同氏が残した作品は従来の概念を覆し、市場構造を変え、世界における漫画・アニメのプレゼンス確立へとつながった。本稿では、鳥山明氏の作品が業界・市場にもたらした革命的な影響について振り返りたい。
まず鳥山明氏の2つの代表作について振り返る。
鳥山明氏の最初の連載作品『Dr.スランプ』が少年ジャンプに登場した80年代は、いわゆる劇画調の画やスポ魂ものがまだ残っていた時代である。その環境下で、細い均一な線で描かれたポップなキャラクターたちによるギャグ漫画は、当時の少年ジャンプそして少年漫画における異端の作品といえる。
鳥山氏が当時としては異端の作品を生み出した背景には、同氏のグラフィックデザイナー・イラストレーターとしての画力を、漫画に転用したことにある。特に、徹底したデフォルメを行いながらも、元のイメージを崩さずに、かつ違和感を持たれない画法は、名だたる漫画家たちからも高い評価を受けている。
そのような確固とした画力、そしてアラレちゃんや則巻千兵衛が織り成す日常ストーリーに支えられたDr.スランプは、瞬く間にジャンプ内の人気作品となった。また、連載翌年にテレビアニメ化されたこともあり、少年漫画読者のみならず、女性やより低年齢の子供からの支持も得た。
Dr.スランプの連載終了後、84年から連載されたのが『ドラゴンボール』だ。同作で鳥山氏はキャラクターデザインや表現方法をさらに磨き上げ、以後40年もの間人気が継続する大作を生み出した。
ドラゴンボールにおける特徴もDr.スランプと同様だ。細いシンプルな線やトーンを極力使わず、白黒の2色で描かれたキャラクターたちは、それまでのバトルものによくあった“男臭さ”とは異なる印象を与え、幅広い年齢層に支持されることとなった。
特筆すべきは、優れたコマ割りと独特なカメラワークである。詳細については専門家の解説に委ねるが、バトル中のキャラクターの動きに連動してカメラの向きを変えることで、読者目線からキャラクターの挙動をより直感的に認識しやすくしており、読みやすい表現方法を用いている。
ストーリー面における特徴は、敵役がシンプルな「悪」という点だ。多くのバトルものでは、戦う理由やキャラクターの魅力を強調するために、敵キャラクターに背景ストーリーや、戦いの理由などを付加することがある。これによりストーリーに奥行きが生まれるのだが、理解に多くの文字を要するという欠点もある。しかしドラゴンボールでは、ピッコロ大魔王や初期ベジータ、フリーザ、セル、魔人ブウなど、敵が単純に「悪」として描かれており、子供でも分かる悪事を先に行うことで、主人公たちとのバトルがスムーズに進行する。
これらの表現方法とストーリー構成により、ドラゴンボールはせりふを読まずに画を見て進めるだけでもバトルの見せ場につながる流れを理解できる作品となっている。アニメ化された後も同様であり、キャラクター間の会話内容を完全に理解できなくても、バトルに向かう流れを感じ取ることができる。漫画・アニメの両方において、戦うキャラクター同士が向かい合うコマや場面を作ることで、バトルが始まることを理解できる仕組みとなっている。
このような構成は、より低年齢の子どもたちに門戸を開くだけでなく、異なる文化を持つ海外市場にも受け入れられる要因にもなったと考えられる。
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