確かに、配属ガチャ対策として手厚い人事施策はメリットがあります。
新卒採用の場合、採用に至るずっと前の段階で、会社説明会、インターンシップ、社内イベント、選考、面接など、たくさんのステップがあります。つまり「この会社に入ったら何ができるのか」「どんな働き方をしたいのか」「協調性が高いタイプか、主体的に動くタイプか」など、お互いにミスマッチをつぶす機会が設けられているのです。このステップで企業は、本人の希望はリサーチできています。
そこで獲得した希望通りのハコを用意し配属すれば、希望職種での成長を望めるでしょう。また、地元で就職をしたいという希望や、家族や環境などの理由で自身の生活圏を変えたくないという希望をかなえれば、新卒社員は「知らない土地に飛ばされるリスクがない」という安心感が得られます。これは新卒社員にとって代えがたい価値になるでしょう。
ここで一度顧みたいのは、ガチャ対策の人事施策はメリットだけなのかという点です。
そもそも配属先が自分で選べない場合でも、企業はその人物の能力などを判断して、一定の適性のある部署に配属するよう考慮します。それが経営ビジョンに基づいた人員計画の全体最適だからです。
確かに、個人で見た場合には「希望と違う」という最初のガッカリはあるかもしれません。しかし「やってみたらこんな適性があった」といった発見もよくあります。
特に新卒の場合は未経験のため「自己分析した適性」と「企業側から見た適性」が一致しないことも多くあります。そのような場合、本人の希望通りに配属した結果、生まれるかもしれなかった能力を逃すことにつながるのです。
また、中長期の視点として幹部育成を見据えた際、マネジメント能力やトラブル対応能力は必須になります。自分の希望のみの経験値で、例えばチームリーダーになった場合、想像力や判断の幅もそのサイズになります。結果、自分の仕事はできるが、組織の動きは悪いという状態になりやすいのです。
このように、主体的にキャリアを選択し成長していったと思いきや、人材育成という長期的なビジョンを俯瞰で見た場合、ハコの中で頭打ちになった人材になってしまうというデメリットも含んでいるのです。
「新卒で応募し、企業に採用された」ということは、ともに働き、成長したい気持ちは一致しています。
新卒社員からすれば、希望通りの配属になってもならなくても「思ってたのと違う」という感覚は多少はあるはずです。それを「ガチャに外れた」ではなく「成長を見据えた結果の着地」という認識にするのは、育成側のフォローにかかっています。
本人の希望はしっかり把握したうえで、配属の理由を丁寧に説明することが必要です。さらに「ここを評価している」「実はここの能力が高い」「〇年後にはこうなってほしい」などと、評価や希望を配慮した上で、期待している未来像をしっかり説明することが重要です。定期的な1on1やメンター制度を入れるなど、密なコミュニケーションが本人の納得感や心理的安全につながります。
情報を開示し、近い将来像を話し合い一緒にキャリアを構築していくことで、安易なリセットはなくなります。結果、変化に対応できるしなやかな人材が育ち、最終的にはそれが経営ビジョンに合致した持続可能な企業になるのです。
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