物流2024年問題で叫ばれる「多重下請撤廃」 それでも“水屋”がなくならないワケスピン経済の歩き方(3/6 ページ)

» 2024年04月03日 05時30分 公開
[窪田順生ITmedia]

「末端作業員」の労災死亡事故が社会問題に

 ただ、ピンハネも手抜き工事もまだかわいいもので、本当に恐ろしいのは「人命軽視」だ。下請けピラミッドの最下層にいる末端の作業員ほど、危険な場所で作業をさせられて亡くなっていたのだ。

 戦後、労働死者はずっと減少していたが、80年代後半のバブル最盛期に大型工事が増えたことで、労災死者が急増。4割は建設業となった。死者数の増加を当時、マスコミはこう報じている。

「労働省の担当者は『労災の死傷者は孫請け、ひ孫請けなど企業系列の末端にいる人たちがほとんど』という。しかし、信じられないことだが、働く人の安全を守るはずの同省に、建設業の労災死傷者について、元請け、下請けなどの内訳を示すデータはない」(『読売新聞』 1990年5月6日)

 なぜ当時の労働省がデータをつくっていなかったかというと、「多重下請」に過度にメスを入れてしまうと建設現場が回らなくなってしまうからだ。日本経済が成長していくうえで多少の犠牲は仕方がないという考えのもとでスルーされていたのが、下請けピラミッド最下層の人々たちだったのだ。

 このような「多重下請」の問題が20年近く放置されたところで、ようやく「制限すべき」という声が挙がり始めた。

 2009年には日本建設業連合会が「下請けは原則3次以内」という基本方針を打ち出し、14年には可能な限り2次下請けまでを目指すべきという声明も出しているが、あくまで業界団体の方針なのでそこまで強制力はなかった。

 そうやってズルズルと「多重下請構造」が温存されていく中で、スーパーゼネコン・鹿島建設が「2次請けを超える多重下請撤廃」を掲げ始めてから、なんとなくムードが変わってきた。

鹿島建設(出典:公式サイト)

 同社の押味至一会長が対応した『日本経済新聞』のインタビューによれば、土木現場では9割以上、建築現場でも6割で「多重下請け撤廃」が実現したという。では、なぜ鹿島建設はここにきて急に、半世紀も放置してきた商習慣にメスを入れたのか。

「日本企業は労働者を自前で抱え込まないよう、小集団化して多重下請け構造を構築した背景がある。ただ、多重で管理コストが発生し、技能労働者に行き渡る賃金が減るだけでなく、安全教育や品質管理でゼネコンの目が届きづらくなった」(『日本経済新聞』 3月6日)

 この「品質管理でゼネコンの目が届きづらくなった」ことの分かりやすいケースが、15年に横浜の大型マンションが傾いたことに端を発した「杭打ち不正問題」だ。

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