沖縄アリーナの魅力は収容人数の多さだけではない。
まずは構造だ。体育館のように「競技者のため」ではなく、「観る側のため」に設計されており、八角形ですり鉢状の形状はどの席からでもコートが見やすく、臨場感が高い。天井中央に吊るされた約510インチ(縦6×横11メートル)のメガビジョンも熱気と興奮を増大させる。国内においてバスケ観戦に特化したアリーナ建設はこれまで事例がなかったため、本場である米NBAのアリーナを視察するなどして設計された。
ホスピタリティも高い。コンコースにあるフードエリア、子どもが自由に遊べる2カ所のキッズスペース、授乳室、オムツ替えスペースを完備し、トイレも多い。特に全体の来場者の中で割合が高く、トイレの使用時間が長い女性向けの個室トイレは150室に及ぶ。混雑状況をリアルタイムに確認できるモニターも館内に設置されているため、人の流れをスムーズにしている。
白木氏は「試合では第1クオーター(Q)と第2Qの間、第3Qと第4Qの間は2分しかありません。ハーフタイムも15〜20分です。トイレに並ぶことに時間を費やしてしまうのではなく、食事も含め、アリーナで楽しんでいただくことに費やしていただきたいと考えています」と語り、来場者の消費を後押しする効果もある。
ただ施設の強みだけでアリーナが満席になるほど集客は容易ではない。「勝っても負けてもアリーナを満員にすることが大事。ワクワクドキドキする、感動する、楽しいと思ってもらえるエンターテインメントをどうつくっていくかを常に考えています」と白木氏。そのための仕掛けの一つが、試合の節ごとで変わる多彩なイベントだ。
最近の事例では、1月27〜28日のホーム戦は「レディースDay」と銘打ち、無料のネイルサービスや沖縄出身女性シンガーのライブなどを企画。2月10〜11の「レトロゲームス」ではアリーナBGMを昭和歌謡曲にしたり、アリーナの一角に懐かしい家電や生活雑貨、看板などを展示した昭和博物館を特設したりした。他にもハロウィンやファミリーデーなど趣向を凝らす。
競技に限らず、エンターテインメントに厚みを持たせたことで、これまで琉球ゴールデンキングスというチームやバスケットボール自体に対してそこまで関心が高くなかった「ライト層」の獲得に成功。
白木氏も「試合に来てくれるお客さまに対しては、毎回最高のエンターテインメントを提供することにこだわっています。だからこそ友人に誘われて初めて来場したり、ラフな気持ちで来てくれたりする方が増えているのだと思います」と手応えを語る。
一時はシャッター街と化し、著しく衰退した沖縄市内の商店街や、ビーチリゾートが少なく「素通り観光」が課題とされる市内のホテルと連携したイベントも試合に合わせて開催しており、沖縄アリーナを核とした地域活性化の取り組みにも継続して注力している。地域の学校でのあいさつ運動や選手が参加することもある美化活動、バスケ教室など、地道な取り組みもファン層を拡大する要因の一つだ。
ファンクラブ会員は今シーズンだけで5000人ほど増加し、早々と上限の約1万人に達して受付を締め切ったという。
クラブ決算においては「入場料収入」の他にも、もう一つ目立った数字がある。オフィシャルグッズなどの売り上げを示す「物販収入」である。2022-23シーズンは3億3292万円となり、この項目でもB1、B2を通してトップ。億円台に乗せたチームは琉球ゴールデンキングスを含めて5クラブのみで、2億2776万円だった2位の川崎ブレイブサンダースと1億円以上の開きがあった。
白木氏はビジョンを語る。「最終的に大事なことは、キングスがNBAのロサンゼルス・レイカーズや大リーグのニューヨーク・ヤンキースのような“ブランド”になっていくことです。だからこそ『応援のため』ということだけに捉われないグッズ作りにこだわっています」
ヤンキースやレイカーズのロゴが入ったキャップ、上着などを身に付けている人を街中で見掛けたことはないだろうか。試合観戦時のみに限らず、「普段使い」もできるアイテムとして認知されることは、ブランド化ができている証左の一つといえる。
ブランドとしての価値を上げるため、琉球ゴールデンキングスのグッズはアパレルブランドのように種類が豊富だ。Bリーグのオフィシャルオンラインショップでは同じグッズの色違いなどを合わせて300種類を超え、他クラブを圧倒している。スピード感もある。3人で構成する開発チームが日々アイデアを出し合い、沖縄アリーナ1階にあるショップには毎節のホーム戦ごとに何かしらの新アイテムが並ぶ。大体3カ月ごとに在庫が全て捌(は)けるイメージだという。
当然チームカラーであるシャンパンゴールドとスチールブルーをあしらったアイテムは多いが、Tシャツやトレーナー、キャップなどの色彩はさまざま。ホッケーシャツやデニムジャケットといった斬新な商品もある。一見するとスポーツクラブではなく、アパレルブランドの商品かと見紛うような衣服もあるが、その背景にはブランド化とは別の理由もある。
「私たちとしては、沖縄アリーナに来た人たちはみんなキングスファンであり、バスケットボールファンなので、差別化をしたくないんです。だから物販に関しては『クラブカラーをつくらない』という戦略があります。会場に来る時に『このユニホームじゃないといけない』『この色じゃないといけない』という文化をつくりたくない。例えば一つの色を決めた場合、別の色を身につけて行ったら相手チームのファンだと思われて、その人は席に居づらくなるかもしれません。好きなファッションでアリーナに来て、応援して、エンターテインメントを楽しんでほしいんです」(開発担当者)
「クラブカラーをつくらいない」という思想は琉球ゴールデンキングスのマスコット「ゴーディー」にも表れている。米国出身、沖縄育ちという設定で、色はチームカラーとは異なり、米国国旗と同じ赤、青、白。リーグ内では珍しく、チームのユニホームも着ていない。
独特な歴史を歩み、アジアや米国などからさまざまなものを取り入れ、いろいろな文化がごちゃ混ぜになった「チャンプルー文化」と呼ばれる沖縄の風土には、このような自由なカルチャーが合っているのかもしれない。
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