マーケティング・シンカ論

なぜ、沖縄のプロバスケチームは"日本一"観客を集められるのか琉球ゴールデンキングスの躍進(3/3 ページ)

» 2024年04月24日 08時30分 公開
[長嶺真輝ITmedia]
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BEAMSコラボで東京へ 背景にある課題感は

 ブランド化に話を戻そう。2023年に琉球ゴールデンキングスは、スポーツを通じてポジティブなエネルギーを社会に与えるという点で想いが一致し、メンズカジュアルブランド「BEAMS」が展開する「BEAMS SPORTS」とのコラボプロジェクト「KINGS with BEAMS SPORTS」を開始。両者が共同でシャツなバッグなどをデザインし、JR新宿駅の構内になる専門店舗「ビームスニューズ」に設置したポップアップショップやアリーナショップ、オンラインで販売した。

 BEAMSがバスケットボールクラブと共同企画を実施するのは初の事例で、これまでサッカーやダンス、ラグビーなどさまざまなスポーツとファッションを掛け合わせる取り組みを展開してきたBEAMS側からの提案だったという。これもアイテムのファッション性の高さを示す証の一つだろう。提案を受けた理由はこうだ。

 「沖縄では会場に来たことがない人はいても『クラブを知らない人はほとんどいないんじゃないか』と感じられるくらいの認知度を獲得し、それだけの努力をしてきた自負があります。ただ、沖縄を一歩出れば『琉球ゴールデンキングスって何?』という世界が広がっていて、それが自分たちにとっての一番の課題でした。だからこそ、全国、海外で人気のあるBEAMSさんとのコラボで自分たちをリフトしていただき、ブランドとしての価値を上げられるんじゃないかと考えました」(開発担当者)

沖縄アリーナ1階にあるショップに設置された、BEAMSとのコラボアイテムを並べたコーナー

 新宿駅での店舗展開は期間限定であり、もちろん一度の取り組みで認知度が劇的に向上するわけではない。それでも沖縄を飛び出し、海を越えて東京の中心地で「キングス」の名をアピールできたことは、ブランド化以外の効果も実感できたようだ。

 「もちろん県外の人たちにも琉球ゴールデンキングスのことを知ってもらいたいという思いはありますが、僕たちが『沖縄の人が誇らしいと思える球団になりたい』と考えた時、東京に進出することはすごく大きな挑戦でした。まだキングスやBEAMSのファン以外の方にはそこまで広まっていないとは思いますが、沖縄を元気にするためにも意義のある取り組みだと考えています」(開発担当者)

 昨年12月には、沖縄出身俳優の黒島結菜さんをイメージビジュアルに起用したコラボ企画の第2弾を実施。今後もBEAMSでの通常店舗での取り扱いや、海外展開などの可能性もあるかもしれない。

地域貢献を掲げるからこその「沖縄を世界へ」

 沖縄アリーナへの集客促進やグッズ開発によるブランド化などの取り組みに触れてきたが、冒頭で記したように、その根幹には「沖縄をもっと元気に!」という活動理念がある。地域の発展に貢献することを意味しているため、終わりはない。

 また、Bリーグがさらなる成長を求めて「夢のアリーナ構想」を一丁目一番地に掲げ、昨年はオープンハウスアリーナ太田(群馬クレインサンダーズ)やSAGAアリーナ(佐賀バルーナーズ)が開業。今後も多くのチームが専用アリーナのオープンを予定しており、経営面における競争環境が一層激しさを増すことは確実だ。だからこそ、白木氏は危機感を込めてこう話す。

 「常に新たなことに挑戦していくことがキングスの文化なので、『現状維持は衰退』という言葉をよく使っています。Bリーグで優勝したり、入場料収入が10億円を超えたりしている中、次の大きな山を決めないといけないと考えていました」

「沖縄を世界へ」というビジョンに込めた想いを語る白木享社長

 そこで今シーズンに掲げた新たなビジョンが「沖縄を世界へ」だ。アジアNo.1球団になることやNBAチームとの対戦などを構想する。今シーズンの開幕前にはバスケ人気が高い台湾のチームと沖縄アリーナでプレシーズンマッチを行ったり、日本、韓国、フィリピン、台湾のトップクラブが参戦した東アジアスーパーリーグ(EASL)でNBAの元スター選手が沖縄アリーナでプレーしたりするなど、着実に実績を積み上げている。

 ビジョンに込めた想いを白木氏はこう話す。

 「沖縄にはアジア、世界で挑戦している企業がたくさんいます。その方たちと一緒に海外に行き、沖縄のことをもっと知ってもらいたい。だから『沖縄から出て行こう』ではなく、『沖縄をもっと知ってほしい』という想いから“世界へ”を掲げました。県民に愛される、誇らしいと思ってもらえる球団として、僕たちの活動を通して沖縄を世界にアピールしていきます」

 独特な地域性を持つ沖縄の地に深く根を張り、足腰の強い経営を進めながら、県外、そして海外へと事業展開のスケールを広げている琉球ゴールデンキングス。その地域における課題の解決や経済活性化を図ることで経営の規模拡大、事業の継続性を高めるスポーツビジネスにおいて、バスケットボールに限らず、さまざまなクラブにとって学ぶ点は多いだろう。

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