今回、山崎製パン工場の死亡事故について『週刊新潮』が問い合わせをしたところ、窓口となった広報担当者が笑いながら応対したという。この人からすれば、60代のパート女性は「同じ会社で働く仲間」という感覚ではなかったのかもしれない。外国人労働者などと同じく、「安くてうまいパン」を製造するための「安価な労働力」としか見ていないので、女性の死もどこか遠い国の話のように思って、笑みがこぼれてしまうのだろう。
もちろん、食品工場で働くアルバイトやパートの皆さんの中には、自分たちが企業側から「冷遇」されているという自覚がある。
長時間労働のわりに時給が安いからだ。前出『食品産業の働き方改革 早分かりハンドブック』によれば、「食料品製造業の労働生産性は、全産業平均の約7割、製造業平均の約6割の水準で低迷している」という。
生産性の低い仕事をやらされているので、パートやアルバイトの皆さんはモチベーションが上がらない。労働意欲が低下すれば当然、安全管理もおざなりになる。食品製造業が他の製造業と比べて突出して労災が多い背景には、この業界が抱える「低賃金・低生産性」も無関係ではないのだ。
そして、個人的にはこの状況はさらに悪化していくと思っている。日本の食を支える非正規労働者が絶望するようなニュースが多いからだ。
今、マスコミや経済アナリストは「春闘で賃上げの波が中小企業まできた! あと少しで賃上げの実感が来るぞ」なんてふれまわっているが、これは悪質なデマだ。
日本国内の労働組合は2万ぽっちしかなく、350万社ある中小企業にはほとんど組合はない。連合が「中小企業の組合でも賃上げが!」と騒いでいるのは、わずか200ほどの組合の交渉結果をもとに言っている。
つまり、「春闘で賃上げの波が中小企業まで」とか騒いでいる限り、日本全体の賃金はいつまでも上がらないし、ましてやパートやアルバイトの賃金など上がるわけがないのだ。
こういう日本の厳しい現実の中で、食品工場で低賃金で働いている人たちはきっと「もうやってられねえよ」と絶望している。これも最近、労災事故が増えている要因の1つではないかと思っている。
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