このLumada事業が日立の成長を牽(けん)引していることは、すでに数字にも表れている。Lumada事業の売上収益は、2022年3月期決算では1兆4000億円だった。それが2023年3月期では、前年比42%増の1兆9600億円と高い伸びを見せている。利益指標として取り入れているAdjusted EBITAも8.3%から約14%に急伸した。
日立は、Lumada事業の売上高を2024年度に、グループ全体の売り上げ構成費の約3分の1にあたる2兆7000億円に拡大し、Adjusted EBITAも16%に向上する計画だ。
谷口氏は、Lumada事業がこれだけの急成長を実現している理由について「ビジネスモデルがようやく定着して、少しずつ積み重ねてきたものがスケール化してきたからではないか」と話す。この積み重ねには2つのフェーズがあったという。
「最初のフェーズはデジタルセントリックでのスケール化です。デジタルセントリックは、テックやファイナンス、メディアなど、ビジネスのアセットがITやデジタルそのものであるお客さまを指します。こうしたお客さまの課題を解決するサイクルを回すことで、ある程度のスケールを作ることができました」
2つ目のフェーズとして、ITやデジタル以外の顧客に広げていったという。
「私たちがOTと呼んでいる、エネルギーや鉄道、産業ソリューションなどの分野です。プロダクトとデジタルをつなげて新しいサービスを作ってきました。この取り組みが『One Hitachi』です。デジタルセントリックのお客さまよりデジタル化に少し時間がかかったものの、徐々に本格化してきました。おのおののフェーズで積み重ねてきたものがスケール化したことによって、Lumadaが着実な成果を上げられるようになってきたと考えています」
日立ではLumada事業の売り上げ構成比を、将来的には50%以上にまで高める方針を掲げている。鍵になるのがグローバルでの展開だ。その一環として、2020年にスイスの電力大手ABB社の電力システム事業を約7500億円で買収したほか、2021年には米国のITコンサルティングサービス企業で、デジタルエンジニアリングに強みを持つGlobalLogic社を約1兆円で買収した。
これらの大型買収がLumadaのグローバル展開を加速させている。その司令塔を担っているのが、谷口氏が率いる日立デジタルだ。
「買収の狙いはグローバルで戦うために足りないところを取り込むことです。デジタルエンジニアリングやデザインによってアジャイル開発に取り組む人材は、それまでも社内にはいましたが、人数はそれほど多いとは言えませんでした。GlobalLogicの能力を取り入れることによって、Lumadaの循環におけるデジタルエンジニアリングのミッシングピースが埋まり、Lumadaをグローバルに提供できる、あるいはグローバルから提供することが可能になりました」
一方で、GlobalLogicと日立の融合には課題もあり、その課題を乗り越えることでさらなる成長を遂げられると、谷口氏は話す。
「(GlobalLogicの合流によって)日立グループのプロダクトやOTを提供しているメンバーにも大きなシナジーが生まれ、新しい売り上げを作れるようになっています。とはいえ、デジタルサービスのビジネスは難しく、山に例えると頂上が常に動いていくようなものです。それに、GlobalLogicと日立のカルチャーが融合してビジネスが回っているのは、まだビジネスユニットの3割くらいではないでしょうか。残りの7割は新しいサービスを作り始めた段階で、その部分は伸びしろと言えると思います。これからもコラボレーションと価値創出の幅を広げながら進化していきます」
DXとグローバル化に舵を切って再成長を果たした日立。その過程では、当時の史上最大の赤字を計上して以降、コストの大幅な見直しや、事業構造や業務プロセスの見直しによって、大規模な社内改革を進めた局面もあった。
次回は、社内の革新と変革を実現したスマトラプロジェクトの実情に迫る。
田中圭太郎(たなか けいたろう)
1973年生まれ。早稲田大学第一文学部東洋哲学専修卒。大分放送を経て2016年4月からフリーランス。雑誌・webで大学問題、教育、環境、労働、経済、メディア、パラリンピック、大相撲など幅広いテーマで執筆。著書に『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)、『ルポ 大学崩壊』(ちくま新書・筑摩書房)。HPはhttp://tanakakeitaro.link/
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