ENEOSホールディングス(以下、ENEOS)が、太陽光パネルの分野で大きなチャレンジをしている。ビルなどの窓ガラスが透明な太陽光パネルに変わり、エネルギーを生み出す未来はそう遠くない。
ENEOSは2021年9月から1年間、透明な太陽光発電窓パネル(UE Power)を建物の窓として使用する実証実験を日本国内で初めて実施した。UE Powerは同社が出資している、米・マサチューセッツ工科大学(MIT)出身の科学者とエンジニアが創立したスタートアップ、Ubiquitous Energyが開発したものだ。
「これまでの太陽光パネルは平置きが一般的だったことに加え、設置には一定の面積が必要でした。UE Powerは縦置きが可能なのと、窓ガラスと同程度の透明度を実現できているため、ビルや駅などこれまでと違ったシーンでの活躍が期待できます。これまでのパネルと設置場所が異なるため、競合せず補完し合える存在だと考えています」(未来事業推進部 事業推進2グループ 主幹 古田智史氏)
UE Powerの構造は「二重窓のイメージ」と古田氏は話す。二重窓の内側に有機化学物質を塗布して形成する発電幕を入れ込んだ。その結果、可視光は透過するため透明に見えるが、紫外線と赤外線を吸収して発電するため、優れた遮熱性と断熱性を実現した。
ENEOSが2021年9月から実施した実証実験では、南向きの窓にUE Powerと一般的な二重窓を設置し、省エネ性能(遮熱性・断熱性)を調査した。結果は上々。日射量に対し、想定される発電量が得られたのに加え、期待した省エネ効果が確認できた。
平置きの太陽光パネルの発電量とは真逆の実証結果が出たようで、古田氏は以下のように話す。
「意外だったのは、UE Powerは夏よりも冬の方が日射量と発電量が多かったことです。従来の太陽光パネルは平置きのため、太陽が高い位置から長く照らしている方が日射量も発電量も多くなります。しかし、UE Powerは縦型のため鉛直に設置したところ、太陽が高い位置にある夏は窓への日射量と発電量が減少しました。冬場は太陽の位置が夏と比較して低いので、より近い角度で太陽光がパネルに当たり、日射量と発電量が増えました」(古田氏)
その他にもさまざまな発見があった。従来の太陽光パネルはパネルの色が黒いため、夏場は熱を持ち発電効率が落ちることもあるというが、UE Powerでは発電効率の低下は見られなかった。また、従来の太陽光パネルはほこりやゴミ、泥などの付着が発電効率を低下させることもあったが、UE Powerは通常の窓掃除と同程度の作業コストで十分に発電効率を保てることが分かった。
続いてENEOSが取り組んだのが、認知度向上も狙った駅内での実証実験だ。JR東日本やYKK APの協力を得て、2023年5〜7月に高輪ゲートウェイ駅構内の東向きの窓に太陽光発電窓パネルを設置した。
「駅構内の窓は、破片などの飛来物から守るために合わせガラスを採用しています。紫外線をカットするので、取り込める光は赤外線のみ。また、東向きに設置したため光が入ってくるのは午前中だけという少々不利な条件でのチャレンジでした」と担当者は振り返る。
午前中に取り込んだ赤外線のみでデジタルサイネージを1日8時間稼働させるというのが実証実験の内容だった。1日8時間稼働を達成し、実験は成功。テレビなど複数メディアに取り上げられたことで、認知度向上にもつながった。
UE Powerがあれば、これまでの太陽光パネルでカバーできなかった部分からエネルギーを取り込むことができる。縦置きに適したビルが多い都市圏では重宝されそうだが、課題も残る。
「現在は30×50センチ程度の小さいサイズを複数枚組み合わせて大きなパネルとしています。実際、ビルやホテルなどから問い合わせをいただいておりますが、商用化に際しては1×2メートルなどメートル級のサイズを求められています。技術的に大型化はクリアしていますが、量産化が問題です」(担当者)
量産化には工場のラインを整える必要があるという。ガラスを受け入れる設備やガラスを保管する倉庫、発電幕を作る作業など、スペースと作業ラインの確保が必須だ。UE Powerの製造自体は1日で完成するという。量産化の一歩手前だ。
商用化すれば、今後新たに建設されるビルやホテルなどへの採用も期待される。まずは米国での採用を進めていくとのことだが、近い将来「あれ、このビルにもUE Power? あそこも?」と、日本でも当たり前の光景になるかもしれない。
※記事内の情報は2024年3月時点のものです
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