なぜマックで“客への反撃”が増えているのか いまだ続ける「スマイル0円」との関係スピン経済の歩き方(4/6 ページ)

» 2024年05月15日 06時00分 公開
[窪田順生ITmedia]

マックの「スマイル0円」とは

 「スマイル0円」と聞くと、マックの経営哲学だと勘違いしている人も多いが、実はそうではなくコテコテの日本文化だ。2021年につくられた50周年記念サイトにはこんな成り立ちが説明されている。

「『スマイル0円』は、1980年代に大阪府のある店舗スタッフのアイデアから生まれました。それが会社の中で共有されて全国に広がり、そして“いつでもお客さまを笑顔でお迎えする”という思いを込めて『スマイル0円』という名前で正式にメニューに加わったのです」

 ご存じのように、1980年代の日本社会は「24時間戦えますか?」というテレビCMが流れるほど労働現場では過労死、パワハラが当たり前だった。つまり、「スマイル0円」というのは、「お客さまは神さまなので、どんな理不尽な仕打ちをされても笑顔で口答えしてはいけない」という昭和の滅私奉公カルチャーが生んだスローガンと言ってもいいのだ。

1980年代にスタートした「スマイル0円」(出典:日本マクドナルド50周年記念サイト)

 そんな時代錯誤の「スマイル0円」をあろうことか、マックは2015年に「復活」をして今も掲げている。これこそが、マックの店舗で「客への反撃」が増えている「元凶」ではないかと考えている。

 多くの日本人は「スマイル0円」と聞くと、「日本人らしいキメ細かなおもてなしの心」なんて好意的に受け取るだろう。中には「仕事なんだから客に対してニコニコ愛嬌(あいきょう)を振りまくのは当然だ」くらいに考えている人もいるかもしれない。

 ただ、世界の反応はちょっと異なる。「接客」という労働とは別に「いつでもお客さまを笑顔でお迎えする」と会社側から感情のコントロールまで命じられることは「感情労働」と呼ばれ、心身を壊すリスクが非常に高いという位置付けだ。そのため、行政や企業側はしっかりと感情労働者の保護やメンタルケアをしなくてはいけないという考え方なのだ。

 そんな世界の潮流と対極にあるのが「スマイル0円」だ。ただでさえ多忙を極めるマック従業員に、こんな時代錯誤な「感情労働」をさせていれば、冒頭の「ブチギレ店員」のように情緒不安定な人が一定数現れても不思議ではあるまい。

 そのように疲弊する現場のメンタルをさらに追い詰めているのが、マックの過度な業務効率化だ。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

アイティメディアからのお知らせ

SaaS最新情報 by ITセレクトPR
あなたにおすすめの記事PR