インターネットの普及から、はや30年。言わずもがなさまざまなシーンでデジタル化が進み、人々の行動を変えている。しかし、業界によってその進度はまちまちだ。
デジタル化に苦心する業界の一つに、保険業界がある。セキュリティの重要性や固定化された商習慣から、デジタル化に慎重な傾向だ。
結果として、生命保険では営業職員123万人が対面で営業、損害保険でも保険募集の従事者が185万人と、人海戦術の側面がぬぐえない(それぞれ生命保険協会「2023年版生命保険の動向」、損害保険協会「2022年度損害保険代理店統計」より)。オンライン保険やWeb相談の普及も進んではいるものの、現在も対面での営業、紙書類での申し込みが主流だ。
そんな中、今後成長が見込まれる領域に「組み込み型保険」(エンベデッド・インシュアランス)がある。オンライン上で商品やサービスの注文と同時に契約できる保険で、欧米や中国を中心に開発が進み、日本にもその波が訪れつつある。
ソフトバンクグループ傘下で組み込み型保険のシステムを提供するリードインクス代表取締役社長の柏岡潤氏は「『保険は人から買わなきゃいけない』という先入観を払しょくしたい」と語る。
組み込み型保険のメリットの一つは、すでにある顧客接点を活用できることだと柏岡社長は説明する。
「例えば、ランドセルを買ったお客さんがいたとします。小学校に入学するお子さんがいると考えると、他の商品も併せて売れる可能性がありますよね。店頭であれば、保険にも興味があるか聞くことでクロスセルができますが、オンラインだとそれが難しい。そういったシーンで、オンライン上でも『学資保険のニーズはありますか』と案内できるというのがエンベデッド・インシュアランスの強みです。
この考えは昔からあるもので、旅行代理店で旅行を買う方に旅行保険を提案する、カーディーラーで車を買う方に自動車保険を提案する――という提案方法と同じく、商品を買うときに発生するリスクに対し、保険をセットで販売するという方法です」
こうした仕組みが求められる背景には、消費者の行動の変化がある。若い世代であればあるほど「対面で保険を売りに来られるのがイヤだ」と感じる人は多い。また、オフィスの休憩室などに入れてもらい、販売する手法も年々難しくなっている。高い買い物でも、店頭ではなくWebで契約することが増えた。
一方、Web上の顧客接点は増えている。しかし、そこから最大限にマネタイズできていると言える企業は多くないだろう。保険の組み込みによって、新たなクロスセルの可能性が見込めるかもしれない。
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