現在は「仕事が厳しい」などの理由で、外科医のなり手が少ない。そのため外科医不足が目立ってきている。だが、がん患者は増える一方のため、日本では需給のアンバランスが起きているという。
「東京と地方を比べると医療密度が20倍も違い、医療格差があります。地方では最先端の治療が受けにくくなっていて、私も北海道に来てこの実態を目の当たりにしました。何とか北海道の患者の皆さんにも最新医療の恩恵を受けていただきたいとの思いから、遠隔で医療指導できないかと思っていました。遠隔で画面を見ながら手術できるようになれば、その格差を縮小できます」
ただ問題は、実際に施術をしてから手術映像のデータが送られてくるまでに時間がズレる致命的な課題があったことだ。この映像転送のズレは、遠隔によるアドバイスがリアルタイムとならずに、かえって危険な指示となる恐れがあった。このため専門の企業と共同研究することによって、映像データを圧縮する方法などの改良を重ねてもらった結果、目標としてきた0.5秒以内のズレより大幅に短い0.02秒まで短縮できるメドが立ったのだ。
竹政教授は「遠隔手術の可能性が大きく広がりました。地域医療に最先端医療の光を当てる、これを『北海道モデル』にして他の地域にも普及させていきたい」と期待を語った。
最新のAI技術を用いると、どこを切れば良いのか、どこを剥離すればよいのかなどを瞬時に画像に表示できるようになってきた。AI技術とロボットの親和性はとても高く、近い将来、ロボット手術に付加価値として応用することが検討され始めた。「これはAIが学習した結果に基づいて見つけてくれるもので、専門の企業と共同研究し、3年間の検証をした結果、若手などまだ技術が完成されていない術者であっても、AIの画像が、がんの手術での安全性と根治性の担保を補助するのに有用であることが認められ、もうじき保険適用される技術です」と話す。
「AIには不確定要素も含まれる可能性があるため、AIに振り回されるのではなく、AIは使い切る姿勢が大事です。最終判断は医師がするので、患者に対してどのような治療が最適なのか信念を持った医師でなければなりません」と医師の役割について指摘する。
手術支援ロボットは保険適用範囲が広がったことによって、患者の経済的な負担も軽減されるため、技術的な進歩と相まって広がっている。メイド・イン・ジャパンの支援ロボットであるヒノトリが、後発ながらどこまでダヴィンチに肉薄できるか。
竹政教授が指摘するように、ロボットを使った遠隔治療が実現すれば、医療格差による「医療難民」をなくせる。期待の大きい手術支援ロボットのさらなる普及にエールを送りたい。
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