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テレビはネットに勝てない!? 古舘伊知郎司会の「経営者が忖度なしで斬る」経済番組ABEMA発(1/2 ページ)

» 2024年06月08日 08時00分 公開
[武田信晃ITmedia]

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 2023年にBS11で放送された経営者による討論番組「For JAPAN -日本の未来がココに-」が4月、インターネットテレビ局「ABEMA」から「For JAPAN -日本を経営せよ-」として再始動した。「日本を経営せよ」という副題のもと、毎週金曜日午後9時30分から放送。新司会には古舘伊知郎と平井理央を迎え、ビジネスの世界で活躍する中小企業の経営者たちが、日本の「運営・経営」を本音で討論する番組だ。

 「失われた30年」と呼ばれる日本経済。古舘と制作担当者に、番組にかける思いと意図を聞いた。

「For JAPAN -日本を経営せよ-」(以下、提供写真)

「経営者=番組に出られなくなっても困らない人たち」の本音

 同番組は、経営の世界で実績をあげている経営者たちがパネリストとなり、月ごとに決められたテーマに沿って語っていく。4月は「教育」、5月は「やる気」だった。それぞれの月でも各回、さらに細かなテーマがある。例えば、4月の2週目は「教職員の現場問題」、4週目は「平等という教育は正しいのか?」などテーマを深く掘り下げていく。

 日本経済について語る番組は多々あっても、経営者だけが集まっていろいろな意見を述べる番組は見たことがない。ある意味、挑戦的で実験的な番組とも言えそうだ。

 「日本の将来を心配する経営者が集まる『For JAPANプロジェクト』という社長たちのコミュニティーがあります。実績のある経営者を集め、テレビで意見を討論してもらう番組を作ろうというところから始まりました」(制作担当者)

 ABEMAでは、古舘が司会を務める新卒就活を対象にした番組「キャリアドラフト」も放送されている。その流れから、古舘にFor JAPANの司会をオファーし、かつBS11からABEMAに引っ越しし「シーズン2」という形で放送を開始した。

古舘伊知郎が司会を務める新卒就活を対象にした番組「キャリアドラフト」

 制作者としての苦労は多いようだ。「経営者はテレビのコメンテーターのような『しゃべりのプロ』ではないですから、通常の番組の6倍ぐらい編集時間をかけています」と話す。話がまとまらなかったりするためだそうだ。一方で「厳しいビジネスの世界で戦っている経営者たちなので、テレビでは聞けないような“光ること”を言ってくれます」と評価する。そのコメントを画面の右下などに箇条書きで表示することによって、視聴者に発言の要点を分かりやすく伝える工夫もしているという。

 パネリストとして出演する経営者には3つの特徴があるそうだ。1つ目は、実際に会社を経営し、実績をあげている裏付け。2つ目は、今後テレビに出られなくなっても何も困らない人たちの集まりなので、視聴者にもテレビ関係者に忖度(そんたく)しないこと。3つ目は「しゃべりがイマイチな点」だという。

 古舘は、バラエティに富む経営者を相手に司会をすることを楽しんでいるようだ。

 「投資コンサルタントや学習塾で成功した人など、いろんな経営者がいて『ちらし寿司』状態です(笑)。それぞれ発想も違うし、一色ではないので、飽きないんですよ」(古舘)

 古舘は2016年3月までテレビ朝日の「報道ステーション」で初代メインキャスターを務めた。「For JAPAN」では多様な価値観を提示していきたいという。

 「議論が深まり、もし日本を活性化させる方法が見つかったとしたら、逆に『活性化しなくてもOKという発想で考えてみましょう』というように、話を引き戻そうとも考えています。幸せの物差しはいっぱいありますから、幸せ、不幸せにとらわれない方がいいのではないか? ということも言いたいです」(古舘)

「幸せ、不幸せにとらわれない方がいい」と話す古舘伊知郎

日本が世界より「劣る面」をテーマに

 今後のテーマとして6月が「健康」、7月は「広報」、8月は「行き過ぎたコンプライアンス」を予定している。制作者に、テーマの決め方について尋ねると「日本の問題は山のようにありますが、タイトルもFor JAPAN(日本のため)なので、世界と比べて日本が劣る点を列挙しています」と話す。

 6月の「健康」で言えば、世界保健機関(WHO)は健康の定義を、肉体、精神、社会の3つの構成要素があるとしている。ブルームバーグが発表した「健康の国ランキング」でいくと日本は肉体的には1位である一方、精神状態などを加味すると4位にまで落ちる。

 「番組では、うつなどを含めて心の問題がいろいろありますが、経営者はどう対応しているのかを話し合います」(制作者)

テレビはネットに勝てない「上位互換の構造」

 パネリストが忖度なしでするコメントは、核心をつけばつくほどスポンサーとのしがらみがついて回る。「本当のこと」はそれだけ劇薬になりうるのだ。そうしたコメントは地上波では流しにくくなっている一方、ネット配信では流せる可能性も残っている。制作者はネット番組の将来性について明るい見通しを示す。

 「YouTubeを含め、番組の制作もネット配信に確実に移行していきます。例えばFor JAPANも、それほど世間に知られていない社長がパネリストなので、地上波では視聴率は取れないかもしれません。しかし、社長たちがSNSで宣伝してくれたことによって、YouTubeでは16万再生と、なかなかの数字を出しています。つまり地上波では不可能かもしれない“ニッチな番組”が、ネットで十分に成立する時代になったのです」(制作者)

 地上波ではその特性上、あらゆる視聴者がそれなりに満足する「最大公約数」的な放送にならざるを得ない。内容がニッチであればあるほど、ネットとの親和性が高くなるということなのだろうか。

 「間違いないです。『コンプラ』という言葉が暴走して『あれもやめろ、これもやめろ』という世界になってきています。ネットの掲示板にいろいろと書かれるのを恐れるからですが、この番組では、本当のコンプライアンスの在り方を討論してもらいたいと思っています」(制作者)

 制作者は「テレビは絶対にネットに勝てない」と断言する。その理由について「上位互換」という言葉を持ち出してきた。上位互換とは、上位と位置付けられた製品が下位製品の機能を備えることだ。例えば音楽なら、レコード→カセットテープ→コンパクトディスク→ダウンロードという形で置き換わってきた。

 「テレビも同じで、放送時間に家にいないと見られない特性を、YouTubeやTVer、Netflixが上位互換をしてきたのです。テレビを持たない若者が増えた一方、スマホはどこにでも運べ、どこでも見られます。そのUIに現在のテレビは勝てません」(制作者)

 「For JAPAN」はYouTubeとABEMA両方のプラットフォームで動画を公開している。比べてみるとYouTubeでは多くの再生回数を誇る一方、ABEMA単独での視聴回数では、番組の回数を重ねるたびに減少傾向にあるようだ。その対策が必要に思えてしまうが、制作者は「個人的には(あらゆるプラットフォームでの)総再生回数で考えればいいと考えます」と話す。

 YouTubeは世界中で最も利用されている動画プラットフォームだ。パネリストの社長たちも番宣する時にABEMAではなく、ついついYouTube内にある「For JAPANチャンネル@ABEMA」の方で告知してしまうという。それほどYouTubeが人々に定着しているということだ。制作者は「For JAPANを2回視聴したら(YouTubeの)おすすめ動画にあがるのでAIの使い方がすごい」と語っていた。視聴履歴や好みに基づいた動画を推薦するなど、現状のUIではYouTubeが一歩リードしていると言えそうだ。顧客体験(CX)と上位互換には密接な関係があり、ABEMAのUIの課題を示唆している。

司会の古舘伊知郎(左)と平井理央
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