司会に古舘を起用したのはなぜだろうか。
「皆さん、誤解しているかなと思うのですが、古舘さんはとても優しく、気遣いの人です。怖いイメージがあるかもしれませんが、それは真剣にやっているから怖く見えるのです。パネリストが緊張していたり、うまくしゃべれなかったりしたとき、言葉で盛り上げたり、フォローしたり……。言葉だけで人を上手に扱える司会者は、今の日本で私の知る限り、彼しかいません」(制作者)
古舘は番組収録前に、参加者の生い立ち、経歴、会社の業態、業績などを全て頭に入れているという。「69歳の古舘伊知郎がそこまでやっている」ということで、ディレクターを含め現場が引き締まるそうだ。
古舘は「私が唯一、誇れる才能は準備です。準備が全てだと思っています」と語る。実際に事前に用意したコメントを全て使える保証はないものの「資料を作っておけば司会進行の安心材料にもつながる」と話す。準備が心の余裕を持たせ、番組進行をスムーズに実施できるひけつだとした。
「For JAPAN」を制作するにあたって検討した日本経済の展望や課題を聞いた。
「単刀直入に結論だけを言うと、日本経済の復活はもう無理ゲーなんです。いろいろな要素が複雑に絡み合って、ほどくのが難しいからです。でもこの番組を通して、ネット上に『こういう問題があるよね』『こういう意見もあるよね』と記録していくことによって、いつの日か、実を結ぶ時が来ればすてきですよね」(制作者)
なぜ復活は無理だと主張するのか。経済と人口の関係について考えてみよう。例えば、人口100人の村で食事を食べるなら100食が必要だ。これは経済発展したからといって、今日から朝ごはんを1人2食=200食を食べるということにはならない。人間の胃袋には限界があるからだ。つまり人口が100人である以上、100食分の売り上げしか計上できないため、従業員には100食分の給料しか出せないという論理になる。
もし人口が120人なら、その分が増えて120食分の給料に増やせるだろう。反対に人口が100人の半分の50人なら、言わずもがな50人分の給料となる。現実はここまで単純ではないものの、人口減少がいかに深刻かを理解するためには、分かりやすい例だろう。
「日本では年間で80万人以上の人口が減っています。これは佐賀県の人口が毎年、消えているようなものです。経済の規模を示す数値は、人口×経済活動にプラスして、外貨獲得も加わりますが、年間80万の人口が消えている国の“復活”は厳しいといえます。 昨日より今日、今日より明日と言ったりしますが、この現状では、きっと15年後もずっと暗い話題が続くでしょう。これが日本の未来です」
こういった希望の持てない「本当のこと」に触れた発言は、地上波ではあまり聞かない。
メディアのビジネスモデルとして、今後はネット配信やサブスクリプション型が主流になるかもしれない。制作者は2008年ころから「テレビの15秒CMだけを売ってビジネスをしていくのは今後、難しい」と主張し続けてきたそうだ。それだけテレビ局の財務的な体力は落ちている。
最近、隆盛を極めるボクシングや格闘技の配信ビジネスを見てみよう。34年ぶりに東京ドームで開催されたボクシング4階級制覇王者の井上尚弥と挑戦者だったネリ(メキシコ)の試合を放送できた地上波は、日本のテレビキー局にはなかった。放映権が高騰したことによって、すでにテレビ局が負担可能な額ではなくなっているのだ。主戦場が米Amazonプライム・ビデオやNTTドコモのLeminoを始めとした各プラットフォームに移ったのだ。
「For JAPAN」の制作者は、上位互換や人口減少による経済衰退という客観的事実に基づいた上で「本当のこと」「言いたくても言えなかったこと」も含めた番組作りを進めている。とがったコンテンツはネット配信に向く。日本経済の復活は難しい一方、制作者の話からは「この番組を通じて何とか再生へのヒントを提示したい」という意志と気概が感じられた。
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