日本代表を2回もサッカーワールドカップに導いた希代の名監督・岡田武史。現在は会社を率いる経営者であり、日本を代表するリーダーと言っていい。
だが、初めて日本代表監督を任された1997年当時は、日本代表はおろか、クラブチームの監督経験もない41歳のコーチだった。スター選手も多かった日本チームを、どうまとめあげていったのか――。
「会社もサッカーも、結局は人のマネジメントなんです」と語る岡田。
日本代表監督と会社の経営者という2つの立場を経た今気付いた、チーム作りと会社作りの共通点、マネジメントの極意とは――。“経営者としての岡田”を見せてもらった前回(関連記事:岡田武史監督が選んだ経営者という生き方 FC今治を通じて“チーム日本”を引っ張る)に引き続き、今回は日本代表監督時代を振り返りながら、“指導者・リーダーとしての岡田”に迫る。
岡田武史(おかだ・たけし)株式会社今治.夢スポーツ代表取締役会長。早稲田大学卒業後、古河電気工業サッカー部(現ジェフユナイテッド市原・千葉)に入団し、日本代表選手にも選ばれる。 現役引退後は指導者としての道を選び、ジェフ市原のコーチを経て、1995年にサッカー日本代表のコーチに就任。1997年に日本代表監督に抜擢され、1998年のフランス大会(日本初出場)2010年の南アフリカ大会(日本初のベスト16入り)と、2度のW杯を戦った。2012年には中国のクラブチームの監督を務めるなどした後、2014年に株式会社今治.夢スポーツ代表取締役に就任。2016年より現職(撮影:山崎裕一)――ワールドカップで日本代表がベスト16に行ったのは3回だけで、うち1回が2010年の岡田さんのときです。その3回は何が違ったのでしょうか。
正直、2002年のトルシエ監督のときは日韓開催でファーストポットといって一番強いチームが入っていなかったから、ベスト16に行くのはそう難しくなかったんです。
僕のときと、西野さんのときは何が違ったか。それは、どっちも「ダメだ」といわれていたこと。たたかれてたたかれて、選手たちが、「コノヤロー!」という感じで主体的に動き出したんです。日本人って、本当に主体的に動き出すまでに、そういったタガを外すキッカケが必要なんです。これを僕は“ブラックパワー”と呼んでいます。ブラックパワーは強烈なエネルギーはあるけど、長続きしないという側面もあります。
――やはり主体的に動くことはサッカーでも必要なことなんですね。
日本人は言われたことはきちんとやるけど、自分で判断ができない、とよくいわれますよね。これから日本代表が世界でベスト16以上に入っていくためには、主体的にプレーする自立した選手が必要だと思っています。
――今はまだ選手が自立している状況とはいえないのでしょうか。
おととし、森保ジャパンがベネズエラ戦で、前半で4点ぶちこまれたことがありました。そのときの日本代表の選手たちは皆「どうしたらいいんですか」という感じで、目が泳いでいるんです。選手同士が言い合いをするわけでもありませんでした。でも、同じ年の11月のU-17のワールドカップで、強豪フランスとブラジルが対戦したことがありました。大方の予想はブラジルがこてんぱんにやられる、というものだったんです。
その通りフランスが圧倒したのですが、ブラジルが何とか前半を0対2と、2失点でしのぎました。そして、ハーフタイムにカメラが選手を抜いたら、なんと17歳以下のブラジルチームの彼らがサブもレギュラーも集まって、激しく言い合いをしているんです。しかも、そこに監督やコーチはいない。
後半、奇跡の逆転をしました。彼らは毎週、クビになるのかどうかという状況にいるから、コーチの言うことだけを聞いていても生き残れないんです。日本でそういうことができるかといったら……現状では無理ですよね。ユースに選んでその翌週にクビにしてしまったら、親が飛んできますよ(笑)。
――国によって気質や風土が違い、それが試合での様子にも表れてくるんですね。
日本人の「負けたらお世話になった皆さんにご迷惑が掛かる」といった態度も、それはそれで素晴らしいです。でも、スポーツというのは自分のために、主体的に自分でやるものです。そもそも、サッカー選手でなくても、この国では、自分の人生は自分で選べますからね。
――岡田さんは今、会社の経営者でもありますよね。チーム作りと会社作りに共通点はありますか?
最初は会社の経営と、チームの運営やマネジメントは全然違うものだと思っていたんです。でも、去年くらいから一緒だなと思うようになってきました。選手の成長がチームの成長になるのと同様に、社員の成長が会社の成長になる。会社もサッカーも、結局は人のマネジメントなんですよね。
サッカーは戦術とかいろいろあるだろうと思われるかもしれませんが、やはりいちばん大事なのは選手とコーチのマネジメントなんです。マネジメントをうまくやると「生物的組織」になっていくんです。
――生物的組織、とは何ですか。
一人ひとりが主体的に自立して動き出しているのに、それが1つにまとまっているような組織のことを「生物的組織」と呼んでいます。生物学者の福岡伸一さんとご飯を食べていたら、彼が「古い細胞が死んで新しい細胞が入ってきても脳は命令しないんです。でも同じ形になる。それは細胞同士が折り合いをなすからなんです」と言っていました。それを聞いて、細胞が選手で、脳が監督だとしたら、選手同士が折り合いをなしていく組織が一番強いんじゃないか――と思ったんです。
もちろん、命令を出さなくても脳は必要なのと一緒で、リーダーや監督的な立場の人は必要です。会社も最初の頃は、僕が即断即決で指示を出してまわすようにしていました。最初はそうじゃないと潰(つぶ)れちゃうような状況だったので。
――最初は“命令を出す脳”だったんですね。
でも去年くらいから、徐々に階層をなくして、権限を移行していっています。フラットな組織にしていけば、社員も主体的に動くようになる。今はいろいろな組織論がありますが、僕自身は、きっと強烈なヒエラルキーのある組織ではなく、ボトムアップ的な組織が栄えていく流れにあると思っています。
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