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岡田武史監督が選んだ経営者という生き方 FC今治を通じて“チーム日本”を引っ張る経営者・岡田武史【前編】(1/5 ページ)

» 2021年09月22日 05時00分 公開
[霜田明寛ITmedia]

 あの「岡ちゃん」は今、経営者になっている――。

 サッカーワールドカップ日本代表の監督を2度務めた岡田武史。コーチだった1997年の抜擢(ばってき)に続き、2007年から務めた2度目には、日本代表をベスト16にまで導いた稀代の名監督だ。

 その後、14年に愛媛県の社会人サッカーチーム「FC今治」の運営会社「株式会社今治.夢スポーツ」に出資し、代表取締役に就任した。監督ではなくオーナーという形でチームを引っ張り、会社としてはスタジアム建設に奔走するなど、経営者として7年目の日々を過ごしている。

 なぜ、岡田武史は経営者になったのか。そして経営者として何を考え、“日本というチーム”を引っ張っていこうとしているのか。注目したいのは、岡田自ら考えたという“時代を読んだ”企業理念だ。「これからは物質の豊かさではなく心の豊かさを追う時代」だという岡田。本人に話を聞いた。

岡田武史(おかだ・たけし)株式会社今治.夢スポーツ代表取締役会長。早稲田大学卒業後、古河電気工業サッカー部(現ジェフユナイテッド市原・千葉)に入団し、日本代表選手にも選ばれる。 現役引退後は指導者としての道を選び、ジェフ市原のコーチを経て、1995年にサッカー日本代表のコーチに就任。1997年に日本代表監督に抜擢され、1998年のフランス大会(日本初出場)2010年の南アフリカ大会(日本初のベスト16入り)と、2度のW杯を戦った。2012年には中国のクラブチームの監督を務めるなどした後、2014年に株式会社今治.夢スポーツ代表取締役に就任。2016年より現職(撮影:山崎裕一)

「日本のサッカーはこのままでいいのか」

――まずは、経営者になった経緯を教えてください。

 2010年のワールドカップでベスト16に入り、日本代表の監督を辞めたあとも、日本のサッカーはこのままでいいのかをずっと考えていました。やはり主体的にプレーをする自立した選手を増やしていかなければならないと感じていたのです。そんな時にスペイン人コーチの言葉から、サッカーの原則を作り、それを16歳までに落とし込んで、そのあと自由にするという「守破離」(編注:修業における段階を示したもの)のような方法論を思い付きました。

 そういう話をしていたら、Jリーグのクラブチーム3つほどから「全権をお任せします」とオファーをいただきました。ただ、本当の改革をするためには、今あるものを潰(つぶ)すところから始めなければなりません。現状あるものをゼロにすることにパワーをかけるくらいなら、最初からゼロベースで出発できるところはないかと考えていたんです。

――潰すことにパワーを使うならゼロから始めたほうが早い、と。

 もちろん、ゼロから始めてからは10年といった長いスパンで時間がかかることとは思っていました。そんなときに、今治で会社を経営しているサッカー好きの先輩が、アマチュアのチームを持っていると聞いたんです。

 「こういうことをやらせてください」と言ったところ、先輩は「ぜひやってくれ。ただ、株式の51%を取得してくれ」と。正直、株式の半数以上を取得することが何を意味するのかもよく分かっていなかったのですが、金額を聞いたら出せない額ではなかったので、取得しました。

――気付いたら経営者になっていたわけですね。

 ただ、始めてみたら会社の預金通帳はあるけど、経理もいないという状況で。もしかしたら、2カ月先の社員の給料が払えないのでは……ということに気付きまして(笑)。正直、経営を始めたら他のことをやる余裕はなくて。今もホーム戦の試合は見ていますが、練習には出られていません。

岡田は今、監督ではなく経営者という立場でFC今治を率いている
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