勢いづく出社回帰 テレワークは消えゆく運命なのか?働き方の見取り図(2/3 ページ)

» 2024年06月10日 07時00分 公開
[川上敬太郎ITmedia]

テレワークはこのまま消えていくのか

 確かに、テレワークという働き方は下火になりつつありますが、このまま消えていくかというと、そうとも言えません。根拠となるポイントを5つ挙げたいと思います。

市民権を得たテレワーク

 まず1つ目は、誰もがテレワークのことを“あって当たり前”と思うようになり、働き方の一つとして市民権を得たことです。コロナ禍以前のテレワークは、言葉だけは耳にすることはあったものの、いざ自分自身の就業環境に置き換えてみるとどこか現実味のない働き方でした。

 しかし、実際に自らが体験したり、身近に経験者が増えたことにより、テレワークは手が届く可能性のある働き方へと変わりました。一度現実的な働き方の一つとして認識されると、テレワークを選択できない環境に対して不満を感じる人も増えていくことになります。

一定程度根付いた

 次に、新型コロナウイルスが2類から5類に移行しても一定の範囲でテレワークが根付いていることです。比率が下がってきているとはいえ、継続してテレワークを実施している人たちはいます。中には、NTTグループのようにテレワークを基本にして転勤を廃止する方針を示した会社もあり、職場環境をめぐる風景はコロナ前と一線を画した状態になりました。

採用の成否を左右

 3点目は、テレワークの可否が採用の成否を分ける条件になってきていることです。Indeed Hiring Labによると、2024年5月にIndeed上で行われたリモートワークに関する仕事の検索割合は、コロナ禍前の2019年5月と比較して2.2倍に増えています。

リモートワークの検索割合はコロナ禍を経て倍増している(Indeed調査)

 さらに、日本生産性本部の調査ではテレワーク実施率が最も高かった2020年5月と比較しても1.7倍に増加しており、出社回帰の傾向とは裏腹に、求職者側のテレワークへの関心はむしろ高まっている様子がうかがえます。人口減少が続き、売手市場の傾向が強まる中、テレワークの可否は採用戦略を左右する重要指標となりつつあります。

タスク単位で浸透

 4点目は、タスク単位に分解して考えるとテレワークはさまざまな場面で既に浸透していることです。帝国データバンクが2023年に実施した調査では、対面とのハイブリッドを含めてオンラインで会議を行っている比率は社内会議で32.6%、社外との会議では65.0%に及びます。

 出社回帰が進んでいるとしても、会議の時など個々のタスク単位ではオンラインが使われているケースが珍しくありません。販売職や保育士といったテレワークが難しい職種でも、シフト調整や業務管理などクラウド上で対応可能なタスクはあります。今後、テクノロジーの発展とともに、テレワークタスクはもっと増えていくはずです。

テレワーク不可が生むロス

 最後5点目は、テレワークできない状態がこれまでになかったロスを生むようになったことです。テレワークが現実的に選択可能な働き方となり、テレワークできる環境なら有益に使えるはずの時間が、ロスと見なされるようになってきました。具体的には、勤務中の移動時間や通勤時間などです。

 社内会議であっても、開催場所の階が違ったり、別のビルまで移動しなければならない場合もあります。社外との打ち合わせであれば、公共交通機関などを使っての移動にかなりの時間を要することになります。しかし、ビデオ会議システムを使って事足りる場合、それらに費やされる時間はロスです。その時間を他業務に使ったり残業削減に充てれば、金銭的なメリットが生まれます。

 従来の認識だと、出社前後の通勤時間は勤務時間とは見なされず、給与支払い対象ではありませんでした。しかし、在宅勤務が出来れば通勤時間を生活や副業などの時間に充てて有効に使うことができます。テレワーク不可能な職務を除いて、テレワーク環境を整えない状態が不当な拘束時間を発生させる可能性も否定できないだけに、通勤などに費やす時間が機会損失となり、社員の権利侵害や賠償対象と見なされるケースも出てくるかもしれません。

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