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DeepL、エンプラ向け翻訳ツールに注力 “AI搭載”で社内翻訳チームはどう変わる?(1/2 ページ)

» 2024年06月14日 08時49分 公開
[河嶌太郎ITmedia]

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生成AIでデジタル戦略はこう変わる AI研究者が語る「一歩先の未来」

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【概要】元・東京大学松尾研究室、今井翔太氏が登壇。
生成AIは人類史上最大級の技術革命である。ただし現状、生成AI技術のあまりの発展の速さは、むしろ企業での活用を妨げている感すらある。AI研究者の視点から語る、生成AI×デジタル戦略の未来とは――。

 ChatGPTに代表される汎用的な生成AIが登場し、生成AIをビジネスに取り入れる動きが加速した。情報の秘匿性と信頼性が求められる大企業を始めとした規模の大きいエンタープライズ企業では、領域ごとに特化した生成AIの開発が進む。「2024年はエンタープライズ生成AI元年」ともいわれている。

 企業向け生成AIは、ERPやCRMなど、組織マネジメントのあらゆる分野で応用され、既にさまざまなツールに取り入れる動きがある。組織マネジメント以外でも、製造業をはじめ、グローバルに展開する企業にとって欠かせないツールとして機械翻訳がある。

 この機械翻訳ツールを手掛け、エンタープライズ向けに生成AIを取り入れるのがドイツに本社を置く「DeepL」だ。Google翻訳などと比べると知名度は高くないものの、翻訳に特化したツールとして、その精度が高い評価を得ている。生成AIを取り入れたことにより、企業ごとにパーソナライズされたコミュニケーションが容易になった。同社は6月7日に「エンタープライズ企業向け DeepL」を発表したばかりだ。

 機械翻訳に特化した企業として、同社で2番目の規模の市場がある日本では、どんな課題があるのか。エンタープライズ向け機械翻訳ツールの将来性とは。前編【生成AIで翻訳はどう変わるのか DeepLが開発する「インタラクティブな訳出」とは?】に引き続き、DeepL社のヤロスワフ・クテロフスキー(Jaroslaw Kutylowski)CEOに話を聞いた。

ヤロスワフ・クテロフスキー(Dr.)DeepL SEのCEO兼創業者。ポーランドで生まれ、人生の大部分をドイツで過ごした。10歳でコーディングを始め、日常生活に役立つ個人的なプロジェクトに取り組む。数学に重点を置いたコンピュータサイエンスの博士号を持ち、DeepL以前は複数のテック企業で勤務。彼のリーダーシップの下、DeepLは世界で最も正確な機械翻訳と、高度に文脈に沿った新しいAIライティングアシスタントを開発し、AIコミュニケーション技術のリーダーとしての地位をさらに強固なものにし、前例のない成長を遂げた。DeepLの一連のコミュニケーションツールは、さまざまな分野の数千の企業を含む、世界中の数百万人の人々によって使用されている

日本語で研究開発した製品 世界にどう発信していくか

――クテロフスキーCEOはこれまでにも何度か来日しています。日本市場にどんな特徴があると考えていますか。

 日本をはじめ、ユーザーと直接お話をする目的で世界の各地域を訪れています。顧客のニーズに寄り添ったソリューションを提供している企業として、直接会って話を聞く姿勢を大事にしているからです。中でも日本市場では、他にはない要望もよく出てきますので特に注目しています。

――日本ではどんな要望がユーザーから出るのでしょうか。

 日本の大企業の顧客には、製造業が多い特徴があります。日本の製造業には、日本国内で研究開発した製品を、南北アメリカ大陸、欧州、アジアなど、世界中に展開している企業が少なくありません。支社も世界中に置き、顧客も世界中に抱えている企業がDeepLのユーザーには多いです。

 こうした企業の課題としてあるのが、日本語で研究開発した製品を、どのように翻訳して発信していくかという点です。海外の一般消費者や顧客に売り出していく上では、社内において日本語でやりとりしていた言葉を、的確に各言語に訳出していかねばなりません。この業務を効率化し、生産性を高められるツールとしての要望が、日本の大企業からは多いですね。

――今年は「エンタープライズ生成AI元年」だといわれています。翻訳ではどんな課題があると思いますか。

 言語や翻訳の分野において、よくユーザーからの要望として聞くのが、AIから出てきたものに対して「よりコントロールしたい」「より自分たちらしくありたい」ということだと思います。社内のコミュニケーションも、社外への発信もそうなのですが、用語を統一した「トンマナ」をそろえたいという要望があると聞いています。

 特にエンタープライズ企業の方々は、文体の在り方を非常に気を付けています。こうした課題の解決に向けて、われわれも開発を進めています。企業ごとに独自な表現をした訳出をカスタマイズできる言語システムの開発も考えています。

――機械翻訳に特化したLLM(大規模言語モデル)が実現すると、企業内の翻訳チームはいらなくなるのでしょうか。

 (不要にはならず)翻訳チームの役割が変化するようになると考えています。以前の翻訳チームであれば、自国言語のリリースを英語などに翻訳し、世界に発信する業務が主でした。それが翻訳する際の用語のガイドラインを策定したり、社内全般の翻訳業務のシステム作りを担ったりといった形で役割が変わると思います。例えば、社員全員がDeepLのようなツールを使いこなせるようにするためのシステム構築などですね。

 AIによって翻訳チームの人員が削減されるのではなく、翻訳業務における、社内を効率化させるためのエキスパートチームに変わると期待しています。世界ではグローバル化が進んでいますから、企業の社員全員がこういったテクノロジーやツールを使わないといけない時代が来ると思います。チームの役割が変わることによって、より会社が成長し続けていけるのだと思います。

――DeepLは2023年7月に日本法人「DeepLジャパン」を設立し、拡大を続けています。この1年間で何が変わりましたか。

 2023年5月と比較すると、全社的な人員は約2倍になっています。海外展開では、日本オフィスをオープンさせただけでなく、米国にも現地法人を設立しました。研究開発面では、特にLLMに関するリサーチを進めています。サービス面では、特にエンタープライズ対応に注力しました。

 日本オフィスは開設以降、人員もだいぶ増えました。その用途は主にカスタマー対応ですね。ユーザーが社内でどのようにわれわれの製品を使っているか、どんな使用用途が今後考えられるかといった、顧客ニーズを理解するための人員として採用しています。

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