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生成AIで翻訳はどう変わるのか DeepLが開発する「インタラクティブな訳出」とは?(1/2 ページ)

» 2024年06月13日 08時00分 公開

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生成AIでデジタル戦略はこう変わる AI研究者が語る「一歩先の未来」

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【概要】元・東京大学松尾研究室、今井翔太氏が登壇。
生成AIは人類史上最大級の技術革命である。ただし現状、生成AI技術のあまりの発展の速さは、むしろ企業での活用を妨げている感すらある。AI研究者の視点から語る、生成AI×デジタル戦略の未来とは――。

 生成AIの登場によってさまざまな領域で効率化が進んでいる。ChatGPTに代表される汎用的な生成AIだけでなく、特に今年に入ってからは、専門領域に特化した生成AIの開発に注目が集まっている。

 さまざまな領域の中で特に機械翻訳は、ディープラーニング(深層学習)や機械学習によるAIを研究開発し、精度を高めてきた。その機械翻訳に特化したツールとして、企業などから高い評価を得ているのが2017年8月にサービスを開始した「DeepL」だ。DeepLは32の言語に対応し、独自のAIを用いた高い精度の翻訳を提供。本社はドイツのケルンにあり、全世界で900人以上の従業員を擁する。

 生成AI時代を迎え、機械翻訳は今後どのように変わっていくのか。コンピューターサイエンティスト出身で博士号も持つ、DeepL社のヤロスワフ・クテロフスキー(Jaroslaw Kutylowski)CEOに、昨年に引き続き話を聞いた。

ヤロスワフ・クテロフスキー(Dr.)DeepL SEのCEO兼創業者。ポーランドで生まれ、人生の大部分をドイツで過ごした。10歳でコーディングを始め、日常生活に役立つ個人的なプロジェクトに取り組む。数学に重点を置いたコンピュータサイエンスの博士号を持ち、DeepL以前は複数のテック企業で勤務。彼のリーダーシップの下、DeepLは世界で最も正確な機械翻訳と、高度に文脈に沿った新しいAIライティングアシスタントを開発し、AIコミュニケーション技術のリーダーとしての地位をさらに強固なものにし、前例のない成長を遂げた。DeepLの一連のコミュニケーションツールは、さまざまな分野の数千の企業を含む、世界中の数百万人の人々によって使用されている

AIは「経営上の意思決定」に活用できるのか

――2023年は生成AIに沸いた1年でした。どう振り返りますか。

 昨年は「AIで何ができるんだろう」とわくわくした感じで、AIへの興味関心が深まったと思います。次の1年では、ある程度AIが周りにある中で「本当に何ができるのか」「どういう事例に使えるのか」「どうやったら生産性が高まるのか」と、AIの活用方法を精査する段階が来るのかなと思います。

――この1年間で、生成AIがどういったものなのかという理解は進んだと思います。こうした動きがDeepLの開発環境や、ユーザーの使い方に変化を与えた点はありましたか。

 社内外からAIに関する相談はよくいただきます。特にユーザーからは、AIを社内で使ってみたいけど、具体的にどの場面で、何をどうやって組み込むのがいいのかといった話をよく聞きます。ユーザーの関心事は、AIが本当に業務に使えるものなのかという品質面のものです。

 例えば汎用AIを用いた製品であれば、ちょっとしたメールを代わりに書いてもらうといった使い方は任せられても、経営上の意思決定をするにあたって、AIが出してくるものが本当に使えるかという点は、まだ精査している印象です。

 われわれの提供している言語領域のAIで、DeepLは品質が高く正確な翻訳が返ってくると理解が得られています。日常業務に取り入れる意思決定がしやすいAI製品だと思います。

――生成AIへの注目度の高まりは、DeepLのビジネスに追い風になりましたか。

 AIを使いたい、あるいは使わないといけない、と考える企業が明らかに増えました。その点では、当社は機械学習AIの開発を進めてきましたので、その理解も進んだ形ではあります。その点では追い風になっていると思います。

 多くの企業がAIに興味関心を抱いていて、AIが企業の成長を維持していくために不可欠なツールだと認識されてきています。企業ごとのAIの課題も認識されてきているので、こうした課題を押さえた上で今後ソリューションを展開していけると予感しています。

――ChatGPTをはじめとする汎用生成AIは翻訳にも活用できます。DeepLにとって新たな競合になるのでしょうか。

 われわれの創業当時も、さまざまな企業との競合環境にありました。その後も新たなプレーヤーが参入し、競争は激しくなっています。翻訳サービスでも、汎用的に多方面で幅広く事業を手掛けている企業が展開しているものもありますし、われわれのように特化したものもあります。この構造は、生成AIでも同じだと考えています。汎用的なサービスは、幅広い言語に対応している反面、正確性に欠ける部分もあります。一方でわれわれの製品は翻訳に特化したサービスとして、この正確さで差別化しています。

 われわれの製品を大企業のエンタープライズが利用する際、顧客は品質と安定性、そして一貫して正確なものをいつでも出してくれるところを重視しています。この正確性と安定性に欠けると、業務に支障が出てしまいます。その点われわれの翻訳に特化したサービスは一定の評価を得ています。

 汎用の生成AIでも、翻訳に活用できますが、訳出の正確性の問題があるだけでなく、ハルシネーションのように、全くの誤情報が紛れて出てくることもあります。この点で、汎用生成AIによる翻訳には、まだ品質的な課題があると考えています。

――ChatGPTの登場はDeepLにどんなインパクトを与えたのでしょうか。一方で、こうした汎用の生成AIと組み合わせてDeepLを展開できる可能性もあるように思います。

 われわれも新しい技術を、どうにか自社製品に生かせないか考えています。他社の動きも注意深くみています。その過程で新しい製品が出てくることもあるわけですが、こういった競争は良いことだと捉えています。競争環境があるからこそ、われわれはより良い製品をユーザーに届ける努力を続けられるからです。

 生成AIとの組み合わせでは、例えば「ChatGPTとDeepL」といったように、2つを組み合わせているユーザーが既に一定数います。ChatGPTの場合、英語を出典とする情報源を多く学習している特徴があります。英語情報の語彙がたくさんあるので、英語以外の言語から自国の言語に訳出する際にChatGPTを使い、その訳出が正しいかどうか、DeepLを活用して確認するといった使い方をしているユーザーもいると聞いています。

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