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生成AIで翻訳はどう変わるのか DeepLが開発する「インタラクティブな訳出」とは?(2/2 ページ)

» 2024年06月13日 08時00分 公開
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NVIDIAのGPUを使ったスパコンクラスタに投資

――いま汎用型の生成AIが出てきている一方で、ビジネスなど、領域ごとに特化した生成AIに期待が集まっています。その中で翻訳に特化した大規模言語モデル(LLM)についてどう考えますか。

 LLMは非常に注力して見ていますし、とても将来性があると考えています。実際に当社独自のLLMも開発しています。

 われわれの研究チームは昨年、NVIDIAのGPUを使ったスーパーコンピュータクラスタに投資をして研究を続けています。今後の可能性を見いだしているのは、ある言語の文章をこの言語に訳してくださいといったことだけではなく、よりインタラクティブに、相互的に訳文が作れるような研究をしています。

 既に自社製品でも、生成AIを取り入れる動きが進んでいます。「DeepL Write Pro」という製品を展開しているのですが、この製品は初めてLLMを搭載した製品になっています。現時点では英語とドイツ語だけの対応ですが、AIの技術的な進化も踏まえ、製品開発に生かしています。

――相互的な翻訳、というのはどういったものなのでしょうか。

 これは今のDeepLの機能でもあるのですが、例えばこの文を訳したときに、訳文をクリックすると、その他の候補が出てくるようになっています。ユーザーがそれを選択していくうちにAIもそれを学習し、自分に最適化した訳文を出しやすいようになっています。それをより一歩進めて相互的なものにしていきたいと考えています。

 具体的には、出てきた翻訳結果に対して、利用者がAIに、チャット形式で言い返せるようになるといった機能です。例えば、これはこういう論文の文章であるといった補足情報をAIに共有したり、個別具体的な訳出についてもAIに相談したりすることができます。まさに人間とAIが一緒になって翻訳するイメージですね。

 こういった開発によって、AIと人間が協業し、AIが人間をより高めてくれると考えています。AIが全てを自動化してくれるという考え方もあると思いますが、翻訳ではそれだと何でも同じ訳しか出てこなくなってしまいます。そうではなくて、AIのアウトプットをより自分らしくパーソナライズする、あるいはその企業にとってより良い発信になるアウトプットを出せるよう、人間を高められる存在だと私は信じています。

――翻訳に特化したLLMが完成すると、どのように翻訳環境が変わるのでしょうか。

 AIとユーザーが相互的に、一緒になって翻訳する点ではLLMを使った方がより簡単に早くできます。ここはLLMではない、より小規模な言語モデルでも可能だと考えていますが、その実現にはまだ時間がかかると考えています。開発を早める目的でもLLMに注力しています。他には、企業ごとの文体や訳出のコントロールのチューニングという点では、LLMの仕様が優れていると思います。

――生成AIによって、翻訳のパーソナライズが実現できるわけですね。一方で、テキストの訳出ではなく、音声による機械翻訳の分野ではどうでしょうか。

 音声翻訳でも開発を積極的に進めています。特に世界中で展開している大企業を中心に、日本のユーザーからの需要は多いようです。開発にあたっては、日本の顧客の要望もヒアリングしながら進めています。音声ベースのDeepL製品、今のテキスト翻訳の品質を保った音声製品をもうすぐ発表できるかと思います。

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