CxO Insights

北海道の釧路製作所が社内DXを推進した“意外な”効果基幹産業が衰退した町を振興(1/2 ページ)

» 2024年07月02日 08時18分 公開
[河嶌太郎ITmedia]

【注目】ITmedia デジタル戦略EXPO 2024夏 開催決定!

生成AIでデジタル戦略はこう変わる AI研究者が語る「一歩先の未来」

【開催期間】2024年7月9日(火)〜7月28日(日)

【視聴】無料

【視聴方法】こちらより事前登録

【概要】元・東京大学松尾研究室、今井翔太氏が登壇。
生成AIは人類史上最大級の技術革命である。ただし現状、生成AI技術のあまりの発展の速さは、むしろ企業での活用を妨げている感すらある。AI研究者の視点から語る、生成AI×デジタル戦略の未来とは――。

 北海道東部の中心都市の一つ、釧路市。かつては炭鉱や漁業で栄え、全盛期には道内4位の23万人の人口を擁していた。1990年代以降に基幹産業が衰退し、今では道内6位の人口約16万人以下に転落。市内全域が過疎地域に指定されている。

 その釧路市の第二次産業を支えるのが釧路製作所だ。同社の創業は1956年。釧路市内(旧阿寒町)に存在した雄別炭鉱の機械メンテナンスをする事業から始まった。その後、1963年に(道路・鉄道などをつくるときに、障害となる河川・渓谷・道路を横断するため、その上方につくられる構造物である)橋りょう事業に進出。主に公共事業の橋りょう建設が事業の主体となり、日本の高度経済成長と共に事業を拡大していった。

 だが、1970年に雄別炭鉱が閉山。経済成長もバブル崩壊以後の30年間も失われたままだ。釧路製作所の羽пiうしゅう)洋社長はこう振り返る。

 「当社はこれまで200を超える橋を建設してきました。橋りょう建設のピークは1990年。まさにバブルの真っ只中でした。当時、日本全国で90万トン建てられていた橋りょうも、今では15万トン。6分の1にまで縮小しています。最盛期は300人いた従業員数も、今では90人と3分の1以下に減っています」

 それでもなお、橋りょう事業は釧路製作所の売り上げの8割を占める。だが、こうした現状に手をこまねいて待っているわけではない。羽ьミ長がこう目を光らせる。

 「鋼製橋りょうが依然として主力事業とはいえ、そのマーケットは年々小さくなってきています。そのため近年では、防災減災に関わる水門事業やクリーンエネルギー中心の構造に転換していくGX(グリーントランスフォーメーション)をはじめとするグリーン事業、LNGタンクの製作、そして(堀江貴文氏が取締役を務めるロケット事業の)インターステラテクノロジズや、北海道大樹町などと協業した宇宙産業に進出しています。橋りょうのみならず、鉄が関わることは何でもやろうということで、事業の多角化を進めています」

釧路製作所(以下、新保美玖さんと羽洋社長の写真以外はLINE WORKS公式WEBサイトより)

生産性を上げる必要性 全従業員にスマホ支給

 多角化を進めるとなると、少ない従業員数でより多くのビジネスを回さねばならない。そこで釧路製作所は、全社員にスマートフォンを支給することに。コロナ禍の2020年のことだった。

 「土地柄地震も多く、東日本大震災の時には避難指示も出ました。もともとは緊急安否確認を目的としてスマートフォンを支給したのですが、同時にLINE WORKSというビジネスチャットツールも導入し、総務経理の分野からDXを進めていきました。LINE WORKSを導入した理由は、社員間の連絡ツールとして使い勝手が良い点や、誰がそのメッセージを読んだのかの“既読”機能の分かりやすさからです。社内のさまざまなデータ登録の省力化や業務プロセスを可視化できる拡張性にも魅力に感じました」

 まずは労務関係を一元化し、勤怠のデータをそのまま給料に反映する仕組みを構築した。会計側とも連携し、ほとんど紙を介さず、例えば社会保険事務所や税務署に行かなくても、申告や申請ができるような仕組みを整えていったという。

 「これで帳簿処理などが全て自動化できるようになりました。タイムカードをもとに残業代なども自動計算されますし、雇用保険や労災保険料の計算などは従業員の年齢などによって異なってくるのですが、これも自動化できました」(羽ьミ長)

 さらに羽ьミ長は、社内DXをトップダウンだけでなく、ボトムアップに推進する特別チームを2023年4月に結成。メンバーは立候補制で、社内から20代から40代までの7人を選んだ。

 このDXチームのリーダーに就任したのが、新保美玖さんだ。新保さんは釧路市出身。釧路高専を卒業後、新卒で釧路製作所に入社した。幅広い年代の社員が集まるDXチームの中で、まだ入社5年目の20代だ。

 「衰退していく釧路の町並みを見ていて、なんとか地元に貢献できる仕事をしたいと考えていました。そこで会社説明会で地域振興のために事業を展開している釧路製作所の取り組みを聞いて『ここしかない』と思い入社しました」(新保さん)

釧路製作所DXチームリーダーの新保美玖さん(左)と、羽пiうしゅう)洋社長

 現在は品質保証室に在籍しながら、DX推進チームのリーダーとしてさまざまな企画・立案をしている。DXチームではまず、現状の課題を洗い出すところから始めた。新保さんがこう振り返る。

 「本来業務でないにもかかわらず、単純業務で忙しくなる仕事が主に3つありました。それは事務用品の在庫管理、ドライバーのアルコールチェック、そして社員食堂の食券の作成業務です。特に紙の食券の作成業務は20枚1セットで大きな紙に印刷し、それにミシン目を付けて裁断する必要があったので1日に10数セットしか作成できず、大きな負担でした」

 こうしたタスクを自動化するには、LINE WORKS単体の機能では対応できなかった。そこで都内のITコンサル企業・ジョイゾーが提供する「Joboco」というサービスを使い、プログラミングの知識がなくてもノーコードで業務のシステム化や効率化を実現するアプリがつくれるクラウドサービス「kintone(キントーン)」とLINE WORKSを連携させた。

kintone(キントーン)とLINE WORKSを連携
       1|2 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.