リテール大革命

ドンキ、爆発的成長の裏に「まじめにふまじめ」 AI活用、商品開発、顧客重視の社風を読み解く(2/3 ページ)

» 2024年07月31日 05時00分 公開
[佐久間 俊一ITmedia]

「マシュマロ構想」は何がすごいのか

 PPIHグループでは、テクノロジーの橋渡しを担う子会社としてマシュマロを2019年に設立しました。プライシングの最適化や消費者ニーズの分析、新たな金融サービスを構想の柱としながらプロジェクトを推進しており、ダイナミックプライシングモデルやオリジナリティあふれる顧客の声の収集だけでなく、金融事業の子会社設立を通した「majica」アプリの価値向上を実現しています。

 この「マシュマロ構想」の根幹には、テクノロジー活用を最大化するだけではなく、そこに、人間の経験と勘を付加することを忘れないという特徴があります。例えば、AIが推奨した価格と店舗の現場スタッフが設定した価格で、どちらが売り上げと利益を大きく生み出したか検証することで、精度を向上させるサイクルを実現しています。

 ダイナミックプライシングは「競合価格から安くする」といった単純な話ではなく、どのように競合店舗の価格を取得し、自社の利益率も加味しながらどこまで値引きできるか、もしくは値引きすべきかといったロジックを組み立てなくてはなりません。その際、低価格が来店要因となる商品と、価格以外の要素が来店や購買要因として強い商品を選別する必要もあります。在庫管理や店舗で常に商品別利益率を管理できるシステムも必要です。

 これらを実現するには、デジタルのみならず、アナログな調査手法や、店舗の経験・勘も考慮に入れる必要があり、PPIHはロジックと現場主義のバランスが素晴らしい、手本となる企業なのです。

PBを「ピープルブランド」へと改称

 2023年6月期、PPIHのディスカウントストア事業におけるPB品の比率は17.3%で、近年大きく伸びを見せています。同社のPB戦略は、他の小売業が標榜する「粗利率向上のためにPB構成比を増やす」という方向性のみならず、商品戦略こそが、経営原理にある顧客最優先主義を体現するべきという信念を感じる取り組みです。

 例えば、ドン・キホーテは2021年に、プライベートブランドを「ピープルブランド」へと改称しました。「ダメ出しの殿堂」というWebサイトをオープンして、消費者からのダメ出しを積極的に募集する斬新なアプローチは、業界関係者を驚かせました。

 その後、同サイトは「マジボイス」というアプリとして生まれ変わり「正直レビュー」と「おしえて掲示板」という2機能を軸に展開しています。正直レビューは5万点以上の店頭商品に「いいよ!」と「ビミョー」による評価ができ、結果をランキングで公表。おしえて掲示板は、行きつけの店舗への要望から商品に関する疑問まで、幅広い内容を投稿できるコミュニティ型のコンテンツです。

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