リテール大革命

ドンキ、爆発的成長の裏に「まじめにふまじめ」 AI活用、商品開発、顧客重視の社風を読み解く(3/3 ページ)

» 2024年07月31日 05時00分 公開
[佐久間 俊一ITmedia]
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 同社は、ダメ出しや指摘をネガティブなことと捉えず「お客さまの声」「商品開発のヒント」としてポジティブに捉えているようです。これは本質的かつ効率的なマインドといえるでしょう。マジボイスの開始から7カ月で集まった投稿は62万件にのぼり、同規模の調査をコンサル会社や広告会社に頼めば、ばく大なコストがかかることは容易に想像できます。さらに、報告書の納品までは数カ月を要し、時がたてばまた分析を依頼しなくては、施策が鮮度のないものとなってしまいます。

 一方、マジボイスには常に鮮度の高い声が膨大に集まってきます。「お客さま視点」という言葉は、多くの企業が掲げていますが、実際には本社の商品開発部の経験や、調査会社の情報などにのっとることも多く、顧客視点が欠如していることケースがあります。

 Googleマップや食べログなどにネガティブな口コミが入り、その対策としていかに良いコメントを増やして低評価コメントが目に付かないようにするかに注力する企業も多い中、PPIHは逆の発想で取り組んでいるのです。集客ではなく、商品開発や店舗運営の根幹に顧客の意見を生かすベクトル自体が、そもそも他社とは異なっています。

真面目になりすぎないことも重要

 同社の経営理念の第2条に「いつの時代も、ワクワク・ドキドキする、驚安商品がある買い場を構築する」というものがあります。一般に、経営戦略を真剣に考えるほど、そこにはレベルの高いロジックと難解な経営用語が並びがちです。また、経営戦略の議論には、社長をはじめ役員、各部門の本部長がかかわることでしょう。

PPIHの経営理念(出所:同社公式Webサイト)

 そうなると「うちはもうかるのか」「競合でうまくいっている企業はあるのか」「そのシステムにかかるコストはいくらか」といった視点になりがちです。顧客視点のワクワクやドキドキが置き去りになってしまうのです。

 もちろん崇高な戦略設計は大事です。しかし、そこにワクワク・ドキドキするような企画やデザインが備わってこそ、そうした戦略は完結するのではないでしょうか。PPIHの取り組みには経営理念以外にも、顧客を驚かせよう、分かりやすく伝えよう、楽しんでもらおうというメッセージが伝わる要素が多くあります。戦略とクリエイティブが融合しているのです。

 ドン・キホーテの売り場を眺めると、「ありえ値ぇ!」などのコピー、そして大きなカタカナの「ド」が目立つパッケージが目立ちます。ちょっと歩くだけで「世界で2番目に売れている液晶テレビブランド」や「猛暑フッ飛ぶド風量扇風機」「紅生姜は“のせる”から“かける”時代へ」など刺激的なメッセージが目に飛び込んできます。

 こうしたエンタメ性の影響か、TikTokではドン・キホーテの商品動画が多くバズっています。数百万再生のものは当たり前で、中には1000万回近く再生数が伸びているものもあるのは、生活のちょっとした不便を分かりやすく、かつインパクトのある言葉で、時には少しふざけたような愛想があるからでしょう。

 売り手側からすれば、裏側の苦労はたくさんあれど、顧客へと届けるときには、楽しさを添えることを忘れない。そのためには、社風や日々のコミュニケーションをはじめとした組織作り、斬新なアイデアを遠慮なく提案してくる外部パートナーとの関係作りが必要になります。ドン・キホーテの楽しさや、にぎやかさの裏側には、多数の戦略的ヒントが隠れているのではないでしょうか。

 最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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