本記事はサステナブル・ブランド ジャパンの「従業員は会社のサステナビリティ戦略に不信感を抱いている――英調査が指摘する現状と対策」(2024年7月24日掲載)を、ITmedia ビジネスオンライン編集部で一部編集の上、転載したものです。SB.com オリジナル記事はこちらから。
今やさまざまな企業がサステナビリティ戦略を掲げている。とはいえ、英調査によれば、その戦略を自分の業務でどう生かせばいいのか分かっている従業員はほぼ皆無だ。企業幹部のグリーンウォッシュを疑う人もいる。
取り組みに積極的に関与したいと望む従業員を、企業側はどのようにして巻き込んでいけばいいのか。専門家の意見や取り組みの実例を交えて紹介する(翻訳・編集=遠藤康子)。
企業幹部に向けられる目が厳しさを増している。気候とサステナビリティ関連のトレーニングを提供する英エイムハイ・アースが発表した最新報告書で、従業員のほぼ全て(93%)が「勤務先が打ち出すサステナビリティ戦略を、自身の日常業務でどう生かせばいいのか分からない」と考えていることが明らかになったのだ。
ロンドンに拠点を置くエイムハイ・アースは、組織全体で職場における気候変動対策に取り組めるよう後押ししている。同社が実施した調査では、勤務先幹部による気候変動対策は不十分だと不満を抱く従業員が4分の3以上(77%)と、リーダーのサステナビリティに向けた取り組みを信頼していないことが分かった。また、回答者の半数以上(52%)が、勤務先の幹部はおそらくグリーンウォッシュに手を染めていると考えていた。
企業で働く1727人を対象にしたこの調査では、従業員は気候と生物多様性に迫る危機についてあまり理解しておらず、話題にする自信がないことも浮き彫りになった。半数を超える55%が、持続可能性に関する知識が浅いことを認めている。また、3分の2を超える70%が、職場で個々人が行動を起こしても、排出量削減や自然保護に影響を与えられるとは思っていないと回答した。
エイムハイ・アースの共同創業者で主任科学者のマシュー・シュリブマン氏は、「私たちはみな、暮らしやすい未来を望んでいる。新鮮な空気と清潔な水が手に入り、健康的な食生活を送れる未来だ。従って、これほど多くの従業員が、気候と自然の非常事態と闘うための勤務先企業の取り組みを、あまり信頼していないという状況は憂慮すべきである」と話す。
「しかし、先見の明がある企業リーダーからはこのところ、気候変動とサステナビリティを広く網羅したトレーニングを求める声が続々と寄せられている。気候と自然が直面する非常事態は加速しており、そうした類いのトレーニングがもはや“あったらうれしい”程度のものではないことを、彼らは分かっている」
エイムハイ・アースの調査に先駆けて、求人サイトのインディードも調査を実施。その結果、回答した従業員の55%が、キャリアをスタートさせたころより現在の方が、環境に良い影響をもたらす仕事を持つことは重要だと考えるようになったと回答した。
ユニリーバ前CEOのポール・ポルマン氏率いるチームが2023年に、米英の民間企業で働く4000人以上を対象に実施した調査「Net Positive Employee Barometer」では、経済の先行きが不透明であるにもかかわらず、51%が「雇用主と自分の価値観が合わない場合は退職を検討するだろう」と回答している。
自分が働く企業がサステナビリティへの責任を十分に果たしていないと考える従業員が、驚くほど多いことが分かった。では、雇用主はこうした状況にどう対処していけばいいのか。
英CSR推進チャリティ団体ビジネス・イン・ザ・コミュニティ(BITC)のコミュニティ・インパクト担当ディレクター、スー・ハズバンド氏は英ピープル・マネジメント(People Management)誌に対し、こう語っている。
「ネットゼロ社会を実現し強靭(きょうじん)な未来へと移行する上では、サステナビリティをすべての業務に組み込まなければならないことが、ますます明らかになりつつある。それはサステナビリティに特化した業務であろうがなかろうが関係ありません」
ハズバンド氏はさらに、誰もが勤務先のサステナビリティに向けた取り組みの一端を担っていると感じられるよう、企業側はサステナビリティを語る際に「明確で、専門用語を使わない言い回し」を用いるべきだと話す。そして、全従業員を対象に、企業が掲げた目標を達成するうえで、各自が果たす役割がいかに重要であるかを教育しなければならないと続ける。
「そうすれば雇用主は、従業員をより巻き込めるし、解決策の一端を担うために必要なスキルと責任を身に着けさせ、正しい方向へと導くことができる」
米ワシントン州の広告・PR会社ウィー・コミュニケーションズ(WE Communications)が先ごろ実施した調査では「勤務先のサステナビリティの取り組みに、ほとんど、もしくは全く関わりがないが、ぜひ取り組みたいと思っている」という回答が78%を占めたが、そういった大多数の従業員とのギャップを埋めるためには、的を絞った社内コミュニケーション戦略を活用するのが一つの手だという。
「自社のサステナビリティ戦略についてさらに周知を図りたいなら、全社規模の計測可能なサステナビリティ指標とサステナビリティ目標を打ち立て、その実際の成果を全従業員に伝えればいい」。ロンドン大学シティ校ベイズ・ビジネス・スクールの教授でサステナビリティが専門のボビー・バナルジー教授はピープル・マネジメント誌に対してそう語っている。
「従業員に各自のカーボン・フットプリントを測定するよう促したり、削減方法を話し合ったり、パフォーマンスボーナスならびに報酬を企業のサステナビリティ達成目標と連動させることに力を入れたりするのも一案だ」
まさにそうした取り組みに乗り出したのが、デンマークの玩具メーカー「レゴ」だ。同社は先ごろ、年間KPI(重要業績評価)を導入(参照:Sustainable Brands Japan「レゴ、全社員の給与体系を気候変動目標と連動へ」)。従業員に支給する賞与の一部を自社事業に関連する年間CO2排出量と連動させ、職務を問わず全ての従業員を促して、世界中の工場、店舗、オフィス全体のCO2排出量を抑制するのが狙いだ。
肝心なのは、どのような業務についていようとも、従業員が自ら影響力を発揮できる方向へと導くことだ。そうすれば従業員は、自分は影響力を持っており取り組みに参加しているのだと、職場の中でも外でも実感できるようになる。ドローダウン・ラボ(Drawdown Labs)が開発した「Climate Solutions at Work」は、職場でできる思い切った気候変動アクションを見つけるのに役立つガイドだ。
また、従業員向けプラットフォームを運営する米WeSpireの「従業員炭素管理ソリューション(Employee Carbon Management Solution)」は、従業員に自身のカーボン・フットプリントに関する知識を提供してくれる。このツールは特に、職場以外でも活用でき、目に見えるインパクト実現に向けて具体的な手順も示してくれる。
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