さて、フロンクスが軽いことは分かった。しかし軽さが飛び抜けていたとして、走ってどうなのか。そこがダメなら意味がない。
実は6月10日に、スズキはこのフロンクスのプロトタイプ試乗会を伊豆のサイクルスポーツセンターで開催した。一応プロトタイプということになっているものの、インドではすでに2023年4月から販売が開始されている。そういう意味ではクルマの基本部分については生産プロトとかではなく、紛れもなく量産モデルであるといえるだろう。日本仕様の装備品組み合わせに関してはプロトタイプということだ。
さて、以下試乗記に入るが、一つ断っておくべきことがある。サイクルスポーツセンターは本来自転車用のコースなので、段差が徹底して排除されており、乗り心地では有利な評価になりがちである。それから試乗当日の路面はウェット状態から始まって、後半がセミドライという環境。これも完全にドライな路面でどうなのかは、ちょっと別に考える必要があるかもしれない。そのあたりは今秋の発売時期に改めて公道試乗会が開催されると思われるので、そこで再度チェックしたいと思う。
フロンクスについて最初に語るべきは従来のスズキのイメージを大きく越えたスタイルだろう。SUVらしく、4つのタイヤを存在感の強い大型のフェンダーで囲い、四肢を踏ん張った安定感のある力強いロワーボディを構築している。これはSUVのセオリー通りである。その上にヘッドランプ(厳密にはポジションランプとウィンカー)の薄い層を重ねて二段重ねの造形になっている。造形は最近のシトロエンと同じで、そのせいもあって、欧州車を彷彿(ほうふつ)とさせるデザインになっている。なかなかにカッコいい。
ちなみにタイヤサイズは昨今のコンパクトSUVとしては小さい16インチ(195/60R16)を採用。そこは見栄えより現実を取ったスズキらしい選択で、前輪の大きな最大切れ角を確保し、コンパクトな車体と相まって最小回転半径4.8メートルの小回り性能を実現している。またフロンクスには四駆モデルもあるが、このタイヤサイズなら雪国で、スタッドレスタイヤとホイールも安価に入手できるほか、タイヤのリプレイスでもコストを抑えられる。
小径タイヤをデザインでうまく処理して16インチでもあまり寂しい感じに見えないのは、デザインの勝利だと思う。
インドマーケットの要望から、4人が広々と使える室内を確保しながら、ひとりで乗る時にはスタイリッシュなクーペデザインを実現すべく、パッケージを煮詰めたという。実際リヤシートに座ってみると、膝前の空間はこのクラスとしては望外に広々している。ただし頭上については十分ではあるものの、膝前ほどの余裕感は感じられない。
インドの税制に合わせて全長の短いボディで、後席空間優先のパッケージを採った結果、ラゲッジスペースは小さ目である。乗車人数によっては、6:4分割で可倒式のリヤシートはそれなりのアレンジ幅を持っている。ただしリヤシートの座面は引き起こし式ではないため、フルフラットにはならない。
フロントシートの出来は昨今のスズキの例に漏れず座面の面圧分布がよくできている。シートのデザインもこのクラスに珍しいシックなテイストながら、「ただただ地味」に陥ることのないセンスを発揮しており、なかなかの華やかさと高級感がある。「シックな色使いとダサい造形」がセットになると目も当てられないが、そうなっていない。インテリアも全般にエクステリアに負けない高級感を備えている。もちろんコストの限界はあるので、あくまでもコンパクトクラスの水準においての話だが。
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