りそなの南社長は「当社グループは100年以上にわたり中堅、中小企業、個人のお客さまに支えられ、共に発展してきた経緯があり、インパクトファイナンスについても中小目線で育てていきたい」と話す。
「中堅・中小のお客さまは、脱炭素、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)やインパクト投資について頭の中では分かっていても、なかなか一歩を踏み出すのが難しい状況ではないかと思います。以前より中小のSXなどを支援してきましたが、金融宣言が出された2021年からは、より使命感を持ちながら営業活動をしています。50万社ある中堅中小の一社一社と、前に進むために地道に対話をし、社会全体の大きなムーブメントにつなげていきたいと思います」
推進するに当たっての課題としては「一社だけでは大きなムーブメントを起こすことはできません。産・官・学・金融のつながりを作って、業界を超えた取り組みが必要だと感じています。その取り組みが新たな価値を生み出す大きなポイントになると考えています。SXやインパクト投資は、業界の垣根にとらわれることなく、日本全体の総力戦で進めていくべき課題です」と、トータルでの取り組みの必要性を強調した。
急速な人口減少に対しては「いかして長期的に歯止めをかけ、時間をかけて反転させるのかについて、解決に向けた大きなイメージを国から個人に至るまで共有していくのが、これからの日本を考える上で必要なことです」と話す。
「一企業の力の及ぶところは極めて小さいものの、全ての関係者が傍観者になるのは良くありません。このため『総力戦』で知恵を出し、現実的な解決策を試行錯誤を通じて見つけていくことが必要だと思います。われわれは、地域経済の活性化を筆頭に掲げている金融グループとして、地域への貢献、町おこしなどに積極的に参画していますが、実際に取り組んでいる中で『力及ばず感』を感じることもあります。先進的な取り組みを個別行、個人を超えて共有事例として共通理解を持ち、共に取り組むことが重要です。地域社会にポジティブなインパクトを創出するための指標、見える化を少しずつ整えていくのが、今後の道しるべになるのではないでしょうか」
今後の課題について隅野社長は、金融界の連携が必要だと指摘する。「インパクト投資の裾野が広がり、参加者が主体となっての実装段階に入っています」とした上で「気候変動を中心に多くのイニシアチブが乱立している状態であり、持続可能な社会の実現に向けて、力を結集すべき」と呼び掛けた。
具体的には「金融宣言は、内外の活動の取り組みを超えて連携、共同することが可能な立ち位置にあると思います。最近、金融庁が立ち上げた『インパクトコンソーシアム』などとも連携を取りながら、金融全体のムーブメントを起こしていく価値があるのではないでしょうか」と期待感を示した。
木原社長は「金融宣言に参加した各社が、インパクト投資の事例を共有して活動していくことが重要だ」と話す。その上で「難しいのは、最初は(この投資は)全然もうからない。経済的価値と社会的価値との同時実現は簡単ではありません。実際にやろうとすると最初は赤字になり、マイナスからのスタートになります。だから企業はなかなか踏み切れないのです。社会的価値を経済的価値に転換して、最終的に企業利益の向上につながる循環ができれば大きなドライバーになると思います」と語った。
国民の年金積立金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)では、公的年金の投資判断にあたって、もっぱら金銭的リターンの最大化を求められてきた。それ以外の「他の事を考慮」(他事考慮)することは禁じられていると解釈されてきた。従ってGPIFはこれまで、投資リターンを最大化する以外のことは考えてはならないとされ、社会課題の解決を目的とするインパクト投資を運用手段にすることはできなかった。
しかし6月、岸田政権で「新しい資本主義」を打ち出した際に、政府見解が変わり、これまでの運用方針に変化が見られた。つまりGPIFがインパクト投資をしても「他事考慮」を禁止した基本方針に違反しないことになった、と解釈されたのだ。
これについて、生命保険というアセットのオーナーである第一生命の隅野社長は「GPIFがインパクト投資をしても、『他事考慮』を禁止した基本方針に違反しないことになったと解釈されたのは、大変喜ばしいことです。ただ現実は、まだ理想とするところまではたどりつけていない」との現状認識を述べた。
「最終的な利益をいかにリターンとして返すかは、最優先事項という共通認識はありますが、そのウェイトの置き方がナイーブで難しいテーマだと思っています。第一生命は責任投資に関する基本方針を掲げ、ここでは中長期的な投資収益の確保と、社会の持続的可能性を両立させる、つまり『二兎を追う』と宣言しています。この主従の関係、または両立なのかにかかわらず、投資リターンを必ず追求する点に関して、投資行動に大きな違いは表れないと現時点では考えています。逆にインパクト投資が中長期投資よりも上位概念といえるかどうかは、なかなか悩ましい問題です」
その上で「インパクト投資は絶対に必要だとは思いますが、(その効果について)第三者機関による客観的な目線で定量的に検証し続けることが必要だと思っています。企業と投資家がエンゲージメントを深めていけば、それ自体が最終的なリターンにつながっていく。皆が共通の評価軸を持つようになれば、株式、債券市場も個別銘柄の選定や売買に反映するようになると思います」と検証の必要性を訴えた。
以上が鼎談の内容だ。インパクト投融資、サステナブル融資といった環境などの社会課題を解決するための投融資は、急速に伸びている。背景にあるのは、金融機関が利益だけを追求していては投資家やアナリストから十分な評価を得られなくなり、株価にも影響が出ている事実だ。
金融機関は、業績以外の社会的価値を実現するための投融資に参画することによって、新たな次元での評価を得られるとみている。一方、民間資金がこうした社会課題の解決に使われることは、財政事情の厳しい国や地方自治体にとっても事業支出の節約にもなる。長期的には、財政支出の削減にも役立つことになりそうだ。
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